米国に気に入られた者が勝ち

アルテミス計画は、国際協力の形はとっているが、米国の計画だ。

参加国、参加条件は、NASAが決める。その判断基準は公開されていない。米国以外の国々にとっては、米国に気に入られた者が勝ち、ということになる。

当然、アルテミス計画の基本は米国ファーストだ。米国の技術育成や産業振興に力点が置かれている。NASAは、日本が参加を表明する前から、米企業とともに、その青写真を描いている。

ロケット、宇宙船、月面基地建設などの技術的、産業的に魅力のあるところをどんどん押さえている。

NASAのホームページには、アルテミス計画の「パートナー」を紹介するグーグルマップの世界地図が掲載されている。地図上には、マーカーがたくさんつけられており、クリックすると、米国や欧州の企業名、担当分野、所在地などが表示される。

アルテミス計画には日本の民間企業も意欲を示している。例えば、トヨタ自動車が月面有人探査車をJAXAとともに開発を進めている。NASAのグーグルマップに加わるためには、日本の宇宙開発の実績や強みをアピールし、NASAから認められる必要がある。

貨物宇宙船
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中国、スペースXは60回成功も日本はゼロ

だが宇宙開発での日本の存在感は薄れている。

2022年のJAXAはトラブル続きで、世界に注目される成果が出せなかった。中国や米スペースX社は、22年にそれぞれ約60回ロケットの打ち上げに成功した。

しかし、日本の成功回数はゼロ。小型ロケット「イプシロン」の打ち上げに失敗し、新型ロケット「H3」の開発が遅れたためだ。さらに、超小型月探査機「おもてなし」の失敗、宇宙飛行士の古川聡さんが責任者を務めた実験での不正発覚など、マイナスの出来事が続いた。

今年になって1月26日にロケット「H2A」の打ち上げに成功し、ようやく一矢報いたが、欧米と競いながら、日本に有利な場所を獲得し、次の世代に向けて発展させていくには、日本政府にもJAXAにも相当な力量が求められる。

日本政府やJAXAにその力はあるのだろうか。

政治家や企業からは、JAXAは、お勉強が得意な「理工系秀才集団」だが、政治、経済、安全保障など世の中の動きに無頓着なまま、自分たちの好きな技術開発や研究ばかりしている、と見られてきた。

このため、2008年に議員立法で「宇宙基本法」を作り、「国家戦略に基づいた宇宙開発」を行うことを決めた。