命がけで車の安全性を高めていた
その時、モリゾウ選手は夜間ドライバーとして数時間、レクサスに乗っていた。暗闇の中を走っていると、「ヘッドライトの光の束が後ろから追いかけてくる」と感じたという。ドライバーとして命がけの仕事をしていたのである。
それだけではない。モリゾウ選手は今も国内外のレースに参戦している。佐藤さんは同行していただろう。
ふたりは今もレース場で車を鍛え、車の安全性を高めている。
さて、ニュルブルクリンクでは24時間レースだから、ドライバーは仮眠するだけ、スタッフは不眠不休だった。
さぞ疲れているだろうと思って見ていたら、豊田さんを始めとするスタッフ、メカニックは高揚していた。みんなで集合写真を撮り、大声で歓声を上げていた。
そこには上下関係も派閥もなかった
地元ファンが「モリゾウだ」と寄ってきたら、豊田さんは笑いながら全員にサインをし、握手をしていた。その後、スタッフひとりひとりと抱き合っていた。スタッフはトヨタの社員だけではない。サプライヤーから派遣された社員もいた。大企業だけでなく、小さな企業からもやってきていた。
豊田さんは、みんなと一緒になって、何枚も何枚も写真を撮っていた。そこにはトヨタもサプライヤーも区別はなかった。社長も執行役員も平社員もない。トヨタのチームワークとは「現場では肩書は関係ない」ということだ。
本当のチームワークとは彼らのためにあった。命を懸けた仕事だから、上下もなく、仲間割れとか派閥づくりなんてことは考えられない。現場にはトヨタだ、サプライヤーだ、という区別はない。現場ではみんな一緒だ。トヨタのチームワークはレース場だけではなく、すべての現場にある。
そして、経営とはヒット商品の開発ではない。チームワークを作ることだ。みんなの力を集めることだ。
新会長、新社長はそのことをよくわかっている。