2年前に説いていた「フランスの3軒の歯医者」の話
会見のなかで豊田現社長は今後の経営について、こう語った。
「トヨタの思想は、すなわち、『もっといいクルマ』をつくり、世界の各地域のステークホルダーに愛され、必要とされる『町いちばん』の会社を目指す道です。言いかえれば、商品と地域を軸にした経営ということになります」
豊田さんは以前から「町いちばんのクルマ屋」だと強調してきた。最初の発言は2年前の「トヨタイムズ」にある。
「フランスの3軒の歯医者さんの話を紹介します。
1軒目の歯医者さんは『世界一の歯医者』と看板を出しました。2軒目は『フランス一の歯医者』を出した。3軒目は、何といって出したか。『この町いちばんの歯医者』と看板を出した。その町の人たちにとって、どの歯医者が一番信頼されたか。(筆者注=むろん、3番目ですね)
トヨタも同じ。トータルの販売台数をどれだけ宣伝しても、お客様は何も嬉しくない。トヨタの各事業体が、その町で一番信頼される会社、工場になることが最も望ましい」
つまり、「町いちばん」とは顧客志向ということ。ふんぞり返った大企業になっちゃいけない、販売台数ばかりを喧伝しても意味はない、従業員は官僚的になっちゃいけない、お客様ファーストの会社でなければ成長しない。彼はそう強調している。
会見を見て、豊田さんが佐藤さんにもっとも守ってほしいと望むのは顧客志向だと思った。
自分の人生だから自分らしく
もうひとつ、会見を通して、豊田さんは「自分を真似しなくていいよ」とも伝えている。
「佐藤さんはかつて、レクサスのディーラー大会で、何を伝えればよいか、悩んでいたことがありました。
私(豊田)がアドバイスしたことは、『私の真似ではなく、個性を大切にしてほしい…』。それだけです。
そのときに彼は、こう言いました。『モリゾウさんがクルマの運転が大好きなら、私は、運転する人を笑顔にするクルマをつくるのが大好きです』。
彼なら、商品を軸にした経営をさらに前に進めてくれると信じている」
「自分らしく生きること」もまた豊田さんが社長として守ってきたことだ。
人は誰でも自分の人生を歩む。偉大な誰かの真似をしたとしても、偉大にはならない。何より、自分の人生を大切にすること。自分の人生なのだから、自分で判断して、自分らしく生きていけばいいじゃないか。
豊田さんはそう考えて実行してきた。