ある男の子は、真夏の日差しで焼けるように熱いマンホールのうえに素足で立っているように父親から命じられていました。少しでも動くと、足首を両手で押さえられていました。
同居する母方祖父から性的虐待を受けていた女子児童がいました。“それ”が行われるのは、決まって祖父の部屋の押し入れの中だったそうです。「おじいちゃんに変なことされる」と母親に訴えましたが、「生活の面倒を見てもらっている身分がわからないのか! わがまま言うな!」と聞く耳を持ってもらえませんでした。中学生の時に祖父が亡くなるまで“それ”は続きました。
何かのきっかけで急に怒り出した母親によって服を脱がされ、全裸のまま家から締め出されてしまった女児がいました。住んでいる公営団地の1階にある郵便ポストの隅にうずくまっているのを祖母が見つけてくれましたが、「お盛んね」と言われて通り過ぎてしまいました。これを見ていた住民が異様な事態に気付き、児童相談所へ通報しました。それから一時保護所に入ることになりましたが、結局は“家庭復帰”となりました。家に戻ってきても祖母と母親から虐げられる暮らしは何ひとつ変わりませんでした。
庭にある犬小屋で寝かされていた女の子がいました。その子は大人になってから私に、「先生、知っていますか? 冬の犬の毛って、ふわふわで温かいんですよ」と笑いながら話しました。
ある男性は、「親が3日くらい帰ってこない日が何回もあって、インスタントラーメンの袋の内側をなめて飢えをしのいでいました。水道も止まっていたので、喉が渇いたら公園に水を飲みに行きました」と、子供の頃のことを聞かせてくれました。

(個人が特定されないように配慮しています。)

押し入れ
写真=iStock.com/miura-makoto
※写真はイメージです

一般的な感覚からは虐待エピソードを信じがたい

聞く耳を疑ってしまうような異常な出来事の数々です。私は当事者たちが「家で起きていたことを他人に話しても、『親がそんなことするはずがない』『親が子供を愛していないわけない』って、よく言われてきました」と異口同音に話すのを聞いたことがあります。親との愛着関係が成立している一般的な世界で生きてきた人たちの立場からでは、こんなことが実際に起きるなんて想像することが難しいのです。

ちなみに私の経験では、虐待する親への理解度は、一般の方と専門家の間とで、あまり差はないように思います。この理由に関しても、順に述べていきます。

いずれの虐待も、親が子との愛着関係を築くことができれば決して起こりません。

では、なぜ愛着関係が不成立となってしまうのでしょうか。