「見切り発車」の新事業・新商品は失敗する

おそらく、多くの会社は、ここまで徹底できていないのではないでしょうか。

キーエンスはメーカーです。しかも特注ではなく「標準品」を作っているメーカーです。

「標準品を作っているのに、新商品の企画・開発の前に、買い手にそこまで細かいニーズを聞くなんて、おかしいじゃないか」と思われるかもしれません。

しかし、キーエンスの新商品企画者は、「商品を作る前に、現場に足を運んでお客様に直接ニーズを聞く」「その企業が何に困っているのかを調査・分析する」という市場調査を徹底的に行い、その結果を商品開発に反映させているのです。

キーエンスのような徹底した市場調査を行わずに出した商品、サービスはすべて「仮説」だけをもとに作られています。

つまり、売れるかどうかがまったくわからないのに作っているのです。

仮説レベルで開発・製造してしまうのは「見切り発車」と言っていいでしょう。

見切り発車をすると、十中八九失敗します。

日本企業の新事業・新商品の成功率が低いのは、この「仮説レベルで見切り発車してしまうこと」が原因の大半を占めると考えて間違いないでしょう。

そして、この新事業の失敗が、会社全体の利益を激減させているのです。

嬉しいサービスと邪魔なサービスの違い

さきほど、「付加価値はニーズが源泉である」と定義しました。最後に、これについてわかりやすい事例を挙げて説明しましょう。

高級レストランや料亭などで、料理の素材や調理法について、スタッフが丁寧に説明してくれることがあります。

こうした説明は、ゆったりとした雰囲気のお祝いの席であれば、品格も感じられて、なかなか風流でいいなと思います。

また、有名店の名物料理を目当てに来たのであれば、お客様も料理の内容について詳しく知りたいはずなので、ありがたい、嬉しいと思うでしょう。

しかし、何か込み入った話をしている最中、例えば真剣に商談しているとき、親しい友達同士が面白い話で盛り上がっているときだったらどうでしょう?

突然「失礼します」とお店の人が入ってきて、途中で話をさえぎられたうえに、料理の説明を長々とされたら……。

「いやあ、せっかくですが、はっきり言ってちょっとうっとうしいなあ……」と感じるのではないでしょうか。