年齢ではなく、どんな薬を飲んでいたのかを調べよ

一時期、医学部の受験で、女子が結婚後退職、離職する確率が高いことや、当直をやりたがらないなどを理由にして点数を引かれるという差別的行為が行われていたことが判明した。

確率論でその人の属性を決めて、個人にあてはめることは一般的に許されることではない。統計をとれば、おそらく女性医師のほうが男性医師より離職率も高いし、当直をやりたがらない人が多いのは事実だろう。しかし、個人レベルでは、そうとは言い切れないので、性別によって就職や入試で差別してはならない。

私は今回の福島での事故報道をみて、改めて高齢者に対する強い「認知バイアス」を感じた。

ここ数年、交通死亡事故は減り続けている。2021年は2636人で、日本全国で1日に7件以上の死亡事故が起きている計算だ。ところが、マスコミは冒頭で触れた97歳の運転手が起こしたような事故しか大きく報じない。これでは高齢者が危ないというバイアスが高まって当たり前だ。人の命がかかわっているのだから、報じて当たり前というのなら、サッカーで勝ち続けると、この問題をバタッと報じなくなる理由がわからない。要は視聴率がとれるほうを選択するのだろう。

この事件のあと、いろいろと調べてみたが、交通死亡事故としてはこの97歳が最年長だった可能性がある。しかし、地方にいくとこの年齢の人は当たり前とまではいかなくてもかなりの比率で運転している。100歳以上の高齢者が9万人いることを考えると97歳以上のドライバーは少なくとも万単位でいるはずだ。

もしその中で1人しか死亡事故を起こしていないなら、むしろほかの年代の人より安全だということになるまいか。

「高齢者が危ない」という認知バイアスをもっていると、事故原因も考えなくなる。

実際、85歳以上の人でも年間ベースで200人のうち1人しか事故(死亡事故でなく一般的な事故)を起こしていない。だとすると、高齢が原因でなく、たとえばスピードの出しすぎとか、スマホのチラ見とか何らかの原因があるはずだ。

今回の事故にしても、また2019年4月に東池袋で母子を含む9人を死傷させた当時87歳の飯塚幸三氏はふだん安全運転だったと言われ、それなのに池袋の事故では2つも信号を無視していたとも報じられている。

医者の立場からすると、そのときの意識状態が正常ではなかったと考えるほうが話のつじつまが合う。意識がもうろうとしていて事故を起こしたのではないかと私は疑っている。高齢者の場合、低血糖や低血圧、低ナトリウム血症などで意識障害を起こすことは珍しくないが、高齢者がふだんどんな薬を飲んでいたかという検証はほぼなされていない。そうした報道を見たことがない。

ピルディスペンサーに薬を整理するシニア男性の手元
写真=iStock.com/Daisy-Daisy
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その理由が「認知バイアス」だとしたら、メディアは自らの検証の甘さをよく反省すべきであり、仮に広告の大スポンサーである製薬会社への忖度そんたくもあるのだとしたら、それはもはや犯罪的と言わざるをえない。