著作物の本質は「創作性のある部分」
著作物は「思想または感情を創作的に表現したもの」です。裏を返せば、すべての著作物には、その著作物特有の「思想または感情を創作的に表現した」部分(創作性のある部分)があることになります。
他方で、著作物には創作性のない部分も含まれています。この『オタク六法』も著作物ですが、条文の定義やありふれた説明をしているにすぎない部分は、「思想または感情を創作的に表現」しているとは言えず、創作性のない部分です。
このように、著作物は、創作性のある部分とそうでない部分から成っていますが、創作性のある部分こそが、著作物の本質的な部分です。ですから、著作物どうしが“似ている”かどうかも、創作性のある部分についてのみ比較する必要があります。創作性のない部分がいくら似ていたりしても、逆に創作性のない部分に手が加えられていたりしても、そのことを考慮すべきではないと言えます。
「複製」の条文上の定義における「再製」とは、既存の著作物と同一性のあるものを創作することと説明しましたが、ここでいう同一性も、創作性のある部分についての同一性を指します。つまり、創作性のある部分には手を加えずに、元の著作物を再現することが「複製」です。
ただし、創作性のない部分については、元の著作物のままでも、そうでなくてもかまいませんから、創作性のない部分も含めて完全に元の著作物をコピーしたものである必要はありません。
他方、「翻案」は、元の著作物に新たに創作性のある表現を加えて、新たな著作物を創作することを言います。新たに創作性のある表現を加えたかどうかという点が、「複製」と「翻案」との決定的な違いです。
もっとも、元の著作物の創作性のある部分がわからなくなってしまうくらいに、創作性のある部分に手を加えてしまえば、元の著作物と“似ている”ものとは言えなくなってしまいますから、この場合には翻案にもあたりません。元の著作物の創作性のある部分は、それがわかる程度には維持しつつ、新たに創作性のある表現を加える。これが「翻案」です。
複製
既存の著作物に依拠し、これと同一のものを創作し、または、具体的表現に修正、増減、変更等を加えても、新たに思想または感情を創作的に表現することなく、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを創作する行為
翻案
既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想または感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為
複製・翻案の判断は難しい
実際には、創作性のある部分とそうでない部分とを区別することも、創作性のある部分が類似しているかどうかの判断も、必ずしも容易ではありません。そのため、そっくりにしか見えなくても類似性が否定されることもあれば、逆に、相違点が多いように見えるのに類似性が肯定されることもあります。
複製・翻案にあたるかの判断は、簡単なように思えて、実は非常に難しい問題です。