ファンと交流する動機

22年7月には、Twitterで音声を伝える「スペース」を早速活用し、リアルな言葉でファンに語りかけている。Twitterでは何十万のフォロワーから気になる発言を見つけリスポンスし、ちょっとした会話もする。驚くほどの行動力である。

新海誠は、自分を応援するファンがとっても好きで、そしてファンそのものに興味があるのではないだろうか。

コミュニケーションの中から時代を読み取り、ファンの声から次作品の創作へのフィードバックを考えているようにも見える。それこそが新海作品が鑑賞者から支持され、特に若者からの共感が際立つ理由なのだろう。

欧米ではなくアジアで支持を受けた

作品の評価がファンの支持から広がっていくボトムアップの傾向は日本に限らない。海外での人気にも同様の傾向が見られる。海外での新海誠の認知度や人気も、実際はかなり早い段階からある。

まさにそれは『ほしのこえ』からはじまっている。『ほしのこえ』リリースの直ぐ後に、韓国と台湾からライセンスの問い合わせが日本へあったという。

日本の熱狂を現地のファンとファンに詳しい業者が嗅ぎ取ったのである。当時は決して大きな会社でなかったコミックス・ウェーブも積極的に海外配給を進めた。新海誠の初期の作品のほとんどのライセンスマネジメントをするコミックス・ウェーブ・フィルムが独立系映画会社で、新しいことでも果敢に挑戦していく熱意を持っていたのも理由のひとつだろう。

そのなかで日本と同様に熱心な新海ファンが、海を越えて育っていった。新海作品が生み出す大衆性、熱狂は共通し、国境を越えるのだ。そうしたファンの拡大の中から、作家として評価も生まれていった。

海外への広がりのもうひとつの特徴は、アジアだ。新海誠とその作品の賞賛は、当初は欧米よりもアジアで際立っていた。なかでも韓国は早くから新海作品の人気が高く、初期の作品から新海監督が熱烈な支持を受けた国だ。

『ほしのこえ』以後は、作品全てがライセンスされ、日本でのリリースからほどなく展開されてきた。新海誠が海外のイベントや映画祭に本格的に訪れたのも韓国が最初だ。ソウル国際マンガ・アニメーション映画祭(SICAF)2005で上映した『雲のむこう、約束の場所』(2004)で、ここでは長編映画部門優秀賞を受賞している。

国際映画祭を開催する釜山の会場
写真=iStock.com/Anney_Lier
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その後も、『秒速5センチメートル』(2007)のSICAFオープニング上映、『星を追う子ども』のスクリーン数100以上での上映は、日本のスクリーン数を大きく上回った。

新海誠は全ての長編作品で公開時に韓国を訪れている。現地での人気の高さに加えて、監督にとっても親しみの持てる場所なのだろう。