他の日本アニメとは異なる売れ方

君の名は。』の世界興行での成功は中国に限らない。韓国、台湾でもヒットは大きい。韓国では観客動員数367万人、同国で公開された日本映画では歴代1位。台湾の興行収入は2億5000万台湾ドル、こちらも日本映画歴代1位である。(いずれも公開当時)

ただ北米での興行収入約500万ドルは、『千と千尋の神隠し』といった宮﨑作品、映画『ポケットモンスター』、「ドラゴンボール」シリーズのヒット作には及んでいない。フランス、英国、イタリア、ドイツといったヨーロッパでの興行でもその数字はアジアよりは控えめだ。

これまで日本アニメの海外の評価、ビジネスの成果は欧米での実績に目が向きがちだった。

『ポケモン』からスタジオジブリ、『ドラゴンボール』、『NARUTO-ナルト-』まで、日本アニメの人気や評価は、欧米の話題やメディアや放送媒体からアジアに波及するのが一般的であった。

米国のグローバルの放送ネットワーク、映画配給の世界への広がりを通じた影響と波及力の賜物でもある。そして日本側も欧米のマーケットが大きいがゆえに、アジアでの日本アニメの人気は理解しつつも、ビジネスでは欧米に目が向きがちだった。

しかし『君の名は。』の成功スタイルは、そうした考え方を覆し、再考を迫る。アジアこそが日本のアニメが輝く場であるというわけだ。

アジア発ハリウッド

さらに『君の名は。』では面白い現象が起きている。アジアでの人気が逆に欧米に波及しているのだ。2017年に東宝の発表により、ハリウッドメジャーの映画会社パラマウント・ピクチャーズによる『君の名は。』の実写企画進行が伝えられた。『君の名は。』のヒットが、もし日本だけであったら企画は進んだだろうか。

おそらく中国でのヒットがビジネスの実現に大きな影響を与えたはずだ。いまや世界最大の映画市場である中国、そして第3位の映画市場の日本で大ヒット、極端なたとえをすれば欧米で中規模のヒットであっても、中国や日本といったアジア市場で大ヒットを想定できれば、大きな興行収入が期待出来る。

企画・製作を立てた人たちの頭には、そんなプランがあるはずだ。“国境を超えたファンの支持→アジアで大ヒット→ハリウッド実写化企画”ボトムアップのパワーはいまやハリウッドにまで到達しようとしている。

ロサンゼルスのハリウッドサイン
写真=iStock.com/Kirk Wester
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これまでの日本のアニメ監督の認知が欧米の映画祭から、つまり上から下への広がりだとするなら、新海誠は「若者発」、「ネット発」、「アジア発」、下から上への広がりなのである。ダイナミックに動くアジア太平洋は、いまや世界の成長と変化の真ん中にある。未来の可能性を考えるなら、新海誠の世界の映画界における重要性は一層高くなる。