なぜ韓国で火が付いたのか

韓国における新海誠人気について、コミックス・ウェーブ・フィルムの常務取締役・角南すなみ一城かずきは、若者たちを取り巻く環境について挙げる。

若者が感じる息苦しさ、受験戦争の厳しさに代表されるような生活環境が、新海誠の描く青春像の理解につながっている。「主人公は自分でないか」と。それは日本、韓国、中国といった東アジアで特に感じられているのでないか。韓国では初期の頃から熱心なファンが多かった。サイン会に行くと、監督が顔を覚えるほど何回も来る人が少なくなかったのだ。

一方で、新海誠のファン像は、世界中どこでもよく似ているとも。少しシャイで礼儀正しい、話し出すと熱くなる。特に韓国はその傾向が強いのではないかと言う。

そんな風景は僕自身も、2013年にオーストラリアのゴールドコーストの『言の葉の庭』のワールドプレミアとサイン会で、実際に現地で見たことがある。

上映会でのQ&A、サイン会の際のやりとりは、どれも内容が深く丁寧に語り合う。確かに新海誠の日本のトークイベントで何度も出会った風景と同じだ。

中国で最も見られた日本映画

東アジアと言えば、中国での人気も見逃せない。2016年12月、日本公開から4カ月後に中国で全国公開された『君の名は。』は、興収5億7675万元(当時92億円)と記録的なヒットとなった。その時点で中国公開された日本映画で過去最高の成績である。

2019年に日本公開から18年ぶりに初めての中国公開とそのヒットが話題を呼んだ『千と千尋の神隠し』を超えた。日本映画が日本以外の国で100億円に近い規模のヒットとなった衝撃は大きかった。それまでのテレビ放送や動画配信だけでなく、劇場興行でも海外ビジネスの可能性があることを日本のアニメ業界に気づかせた点で大きな役割を果たした。

これは中国と前後した北米公開の興行結果とも対照的になった。2017年4月に本格公開された北米での興行収入は5億円程度(当時の為替)。日本アニメとしてはヒットだが、中国の数字に遠く及ばない。中国では日本アニメの歴代1位だが、北米では第10位(当時)なのである。

中国での大ヒットは日本ですでに大当たりしていることや巧みなプロモーションに加えて、『君の名は。』以前より新海誠人気が存在したことも大きい。それまで中国で正式に新海作品が展開されたことがないにもかかわらず、『君の名は。』の公開時にはすでに多くのファンが新海誠の名前を知っていたのである。