説得対象は中国政府が「犯罪者」とみなした人々だが、実際にこうした人々が人道に反しているとは限らない。英スコットランドのナショナル紙は、「こうした『犯罪者』とは、香港人、ウイグル人、反体制派、そしてもちろん、中国共産党を批判するだけの勇気がある人物たちかもしれない」と指摘する。

デイリー・メール紙も同様に、「多くは反体制派の政治活動家であり、(中国)共産党政権を批判するため中国国外へと逃げ出した人々ではないかと懸念される。香港からの脱出者、ウイグル難民、その他の国の正当な市民である可能性もあるだろう」との見解だ。

こうした人々への「説得」工作は、非常に汚い手法で行われることがあるようだ。ナショナル紙は次のように報じている。「情報によるとこれら(取り締まり)により、容疑者の子供たちが中国で教育を受ける権利を失ったり、その他、家族に対する措置が行われたりすることがある」。家族の銀行口座の凍結や、財産没収などもあり得る模様だ。本土に残った家族への迫害を脅しの材料とし、帰国を「説得」している形となる。

23万人を連れ戻した「キツネ狩り作戦」を支える

なお、送還対象となった人物には、電話詐欺などの悪質な容疑者も含まれる。中国政府は2014年ごろから、海外へ逃亡した自国の容疑者を確保する「キツネ狩り作戦」を展開している。ニューヨーク・ポスト紙は、海外に無断で設けられた警察署がこの作戦を支援していると分析している。

しかし、正規の外交ルートを無視した独自警察網の設置は、現地政府との摩擦を生むばかりだ。セーフガード・ディフェンダーズの調査報告によると中国政府は、容疑者の引き渡し条約を締結している国においても、非公認の警察による同様の説得工作を展開している。

同NGOの調査責任者はフォックス・ニュースに対し、「中国共産党がいかに厚顔無恥であり、他国政府に敬意を払わなくなってきていることの表れだと考えています。国際法違反であり、主権の侵害に当たります」と語っている。

セーフガード・ディフェンダーズの担当者はカナダのCTVに対し、監視網の強固さを強調した。「彼ら(中国政府)は国民に対し、たとえ中国を脱出して海外へ行ったとしても、私たちはお前を見ているぞ、監視下にあるのだぞ、そしてお前を追跡して帰国させることができるのだぞ、とのメッセージを送っているのです」

カメラプレビューでは顔認識システムが稼働している
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米政治家もターゲットに

実際のところ、中国共産党政権に対する反体制活動に加わった疑いで送還される人々は後を絶たない。

フォックス・ニュースは「このような警察署はまた、中国政府のプロパガンダを浸透させ、(海外にいる)中国国民の行動と世論を監視するための施設としても機能してきた」と指摘している。中国市民は国外にあっても、悪名高い中国共産党の監視網を逃れられないということになる。