取り締まりの対象は政界にも及ぶ。ブルックリンで活動する58歳政治家の熊焱(Yan Xiong)氏も、このような監視システムの犠牲者のひとりだ。

フォックス・ニュースによると、地元支援者らに対し警察関係の工作員から圧力をかけられ、民主党予備選挙で大敗を喫したという。さらには売春婦を動員した工作を画策され、不倫およびセクハラ騒動を仕立て上げられる被害に遭う寸前だったようだ。このような工作にも、偽装警察署の関与が疑われている。

現場に急行するパトカーに見える車体
写真=iStock.com/z1b
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欧米各国が中国の監視網にメスを入れ始めた

そもそも中国の一部国民や活動家らが国外へと逃げている背景には、強大な国家権力への恐怖や監視社会への嫌悪感がある。こうした社会制度を改善するのではなく、むしろ監視を強化することで国外の国民までをも追い詰める警察網には、中国共産党政権の並ならぬ執念を感じる。

党の対面を重んじ政権批判を許さなかった中国だが、各国の主権を無視してまで独自の捜査網を広げるとあらば、海外の各政府としては黙ってはいられない。中国側が勝手に開設した警察署はここ数カ月で急速に問題となっており、拠点が設けられている各国は対応に着手した。

米ワイアード誌は、カナダ当局が現地拠点の捜査を開始したと報じている。BBCによると、アイルランドのダブリンに設けられていた警察署に対し、現地当局から閉鎖命令が下った。MSNはドイツ捜査当局が、フランクフルトの秘密警察所の調査に乗り出したと報じている。

これまでサービス窓口の名目で存在を正当化してきたものの、実質的な無断警察署の存在を隠すことは難しくなってきている。世界52拠点とも100拠点超ともいわれ、中華料理屋や民家に偽装して展開する捜査網に対し、各国の当局が実態の把握に乗り出した。

自国の犯罪者を国へ帰還させるという聞こえの良い口実を作り、23万人を半ば強制的に「説得」し帰国させてきた中国政府だが、その手法に疑いのまなざしが向けられている。

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