空き店舗を見てはどんな商売をすれば儲かるか考えていた幼少期

彼のビジネス・マインドのルーツはどこにあるのでしょうか。

自伝』の中で、チャップリンは幼少期から商売に興味があったことを告白しています。

わたしには商売っ気があり、金が儲かる計画を立てることに常に心を奪われていた。空き店舗を見つけるたびに、フィッシュ・アンド・チップスの店から八百屋まで、そこでどんな儲かる商売ができるかと、いつも考えを巡らせた。(『自伝』)

本人が幼少より「商売っ気があり」と言う割には、映画ではめったに商売をしているところは出てきません。そもそもあのキャラクターは浮浪者ですし、職にすらついていないのがほとんどです。商売と言えば、『キッド』の詐欺的なガラス屋ぐらいしかありません。

「貧しくても人の道に反してはいけない」と母に諭された

『自伝』には少年期にささやかな商売をした思い出が書かれています。母の衣裳をのみの市で売った日は、威勢よく声を張りあげて店を出してみたのですが、誰もぼろぼろの衣服に見向きもせず、1つ売れただけという寂しい体験になりました。お金のありがたみと商売の大変さは小さい頃から身に染みていました。

また、父が死んだ時には酒場で喪章をつけて花を売り、同情心につけこんで小銭を稼ぎました。最低限の悪事をしなければ生きていけない弱者の現実。しかし、母に諭されて知った、貧しくとも人の道に反してはいけないという倫理は、彼の経済観に大きく影響を与えたことでしょう。

ところで、『自伝』の驚くべき点は、出版当時75歳になっていたチャップリンが何の資料にも頼らず自分の記憶だけで書き上げたというところです。あとから研究者が資料をもとに裏をとってみると、その記憶がいちいち正しいことがわかるのです。