公開時に赤字になった映画は生涯でただ1作

物理学者のアインシュタインは、チャップリンとの会談の後、彼の政治経済に対しての考えの深さに感銘を受け、「経済学者チャップリンへ」とサインをしたほどでした。

チャップリンの「エコノミスト」ぶりにも驚きますが、それ以前に彼は間違いなく超一流の経営者・ビジネスマンでした。完璧主義を貫いたアーティストにして、同時に、生涯作った80本以上の映画作品のうち、公開時に損失を計上したのは『殺人狂時代』の1本だけ。もちろん、この1本も後に再公開やソフト化、配信などで多くの利益をあげています。

浮き沈みの激しいハリウッドで、事実上すべての作品を世界的大ヒットに導いたプロデューサーは他にはいません。ハリウッドに限らず、どんな会社でも、生涯すべてのプロジェクトにおいて利益をあげ続けた経営者などあまりいないのではないでしょうか。

世界大恐慌の2カ月前に持ち株をすべて売却した

こんな話をすると、「要するに監督・脚本・俳優としての破格の才能と人気のおかげで映画がヒットしたわけでしょう? そんな特殊な人のお話は、うちの会社には何の参考にもなりません」と言われるかもしれません。

しかし、次のエピソードを聞くと、皆さんはどう思われるでしょうか?

1929年の8月、アメリカは経済的繁栄を謳歌おうかし、まさにバブルの絶頂にありました。どんどん株価は上がっていったある日、「今、売るなんて大バカだ!」という友人の必死の説得にもかかわらず、チャップリンは「いや、絶対に株は暴落する」と言い出して、持ち株をすべて売却し、安全なカナダ金貨に換えました。

その2カ月後、10月24日にニューヨーク株式市場は大暴落し、世界恐慌が始まります。くだんの友人は後にぼろぼろの格好でチャップリン撮影所にやってきて、「なぜ株が暴落することがわかったんだ」とだけ言って去って行きました。その友人でなくとも「なぜわかったんだ?」と聞きたくもなります。