世界的コメディアンのチャールズ・チャップリンは、演者であるだけでなく映画会社の経営者でもあった。映画プロデューサーの大野裕之氏は「チャップリンが優れていたのは、コメディアンとしての才能だけではない。作品が上映された世界各地の映画館の座席数まで把握して、ヒットの傾向を読むことができた」という――。

※本稿は、大野裕之『ビジネスと人生に効く 教養としてのチャップリン』(大和書房)の一部を再編集したものです。

ハリウッド・ウオーク・オブ・フェイムのチャップリンの星
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1931年の時点で欧州の通貨統合を提唱していた

世界を覆う未曽有の不況――もはや不況を通り越して、まさに世界の危機である。各国政府・経済界はこの経済危機を乗り越えるべくさまざまな策を施しているが、まったく芳しくない。リストラとコスト削減は家計を疲弊させ、デフレを招いているし、自国産業を守るための保護貿易政策は偏狭なナショナリズムと市場の縮小をもたらすだけだ。かつてない危機に対処するためには、かつてない政策を立案せねばならぬ。すなわち、企業の業績や株価を経済の指標とするべきではなく、失業者数を減らすことを重視するべきなのだ。そのために、積極的な時短とともに、ワーク・シェアリングを行なうこと。労働者の最低賃金を大幅にアップし、家計を刺激すること。国際的には、関税を大幅に引き下げ、ヨーロッパにおいては通貨統合を進めるべきだ。

この文章は、最近書かれた経済論文ではありません。実は、これはチャップリンが1931年頃に執筆していた「経済解決論」という未発表の論文の内容です。

ワーク・シェアリングの提案、自由貿易の推進、なにより1931年の時点で欧州の通貨統合を提唱していたのは先見の明というべきでしょう。しかも、彼がその統一通貨を「リーグ」と名付けていたのも興味深いところです。