日米で違うインフレの「中身」
一方、日本では、前年比9%台の企業物価の上昇に対して、消費者物価は上昇しているものの3%と、米国と比べるとかなり低い水準です。
このことは、企業の仕入れ上昇分を十分に最終消費財に転嫁できていないということを表しています。これは、米国とは異なり、日本では賃金の上昇が十分ではないからだと考えられます。コンサルト業である私の顧客の多くは中堅・中小企業ですが、企業規模の小さな会社は、その傾向が特に強いと思います。仕入れ価格の上昇を十分に転嫁できていない企業は、その分、利益を落としています。
昨今、多くの食品が値上げされていますが、取引先のスーパーとの値引き交渉に難航する会社もあるようです。ある食品メーカーの社長は「商品を値上げしたいと申し出ても、チェーンスーパーの強い抵抗にあい、価格改定に応じてくれなくて困っている。相手は大手チェーンなので、力関係がものをいう」と愚痴っていました。小売りの最前線に立つ人々は、買い物客の購買力(給与)が乏しいことを肌で実感しており、安易に値上げできないのでしょう。
政府、連合、経団連などは賃上げを要求していますが、企業、とくに中小企業では賃上げどころではない状態の会社も少なくありません。事実、賃金の統計を見ていると、ここ半年ぐらいは、実質賃金(インフレを調整した後の賃金)はマイナスが続いており、これでは景気が浮揚する力は弱いと言わざるをえません。
また、インフレ率が3%とはいえ、進んでいます。輸入物価の上昇は前年比で40%を超えており、輸入物価の上昇が、企業の仕入れ、ひいては消費者物価に影響を及ぼす「コストプッシュ」型のインフレです。残念ながら日本では景気が良くなり、給与も上がって、物価が上がる「ディマンドプル」の状況は見られません。
日本では、インバウンド消費の増加など、円安の効果が今後は少し景気を浮揚させるでしょうが、賃金が物価上昇を上回って上がらない限り全体的にはしばらくは厳しい状態が続き、場合によっては景気停滞とインフレが同時に来る「スタグフレーション」となる恐れもあります。