米国の住宅は下降局面

ドル・円相場に影響を及ぼすのは、インフレ率、ひいては日米金利差ですが、米国の景気の状況も政策金利に大きな影響を及ぼします。インフレ抑制のために、FRBは金利を上げ続けてきましたが、逆に金利を上げ過ぎると景気を冷やすことにもなりかねないという弊害があります。先に書いたように、現地では今は雇用の状態が良いので、FRBは思い切って政策金利をどんどん上昇させていますが、一部では景気に影響が出始めています。

一番端的なのは住宅市況です。

全米のケース・シラー住宅価格指数と新設住宅着工数

図表2は、全米の住宅価格の状況を指数化したケース・シラー住宅価格指数と新設住宅着工数ですが、明らかに落ち始めています。ケ―ス・シラー指数は長期間にわたり上昇を続け、とくにコロナが蔓延してからは、ローン金利が下がったことや在宅勤務が増えたことで住宅需要が高まり大幅に上昇しましたが、今年の6月をピークに下落し始めました。下落は長い間なかったことです。

また、住宅着工数も、4月には年換算で180万戸を超える水準でしたが、ここにきて大幅に減少しています。

これは、住宅ローン金利の上昇が最大の理由です。

コロナが大きな影響を及ぼしていた2020年には、長期金利(10年国債利回り)は1%を切る水準まで落ち込み、2021年も1%台で推移しました。これにともない、住宅ローン金利も3%台にまで落ちました。米国では住宅価格の90%近くのローンを組む人も多く、長期金利の下落は、在宅勤務の高まりとともに住宅市場に活況をもたらしました。

それが、今年に入ってからのFRBによる金融引き締めで、現状では長期金利は4%を超えており、住宅ローン金利も7%程度まで上昇しています。それにより、住宅市況が急速に冷え込んだのです。

もう一つの注目点は、企業の景況感です。

4-6月期には、税込みで年換算3兆ドルを超える企業収益を記録していました。これは過去最高の数字です。しかし、企業の景況感は下がりつつあります。企業の景況感を表すISM景気指数は、製造業の購買担当者など景気に敏感な人たちを対象に景況感を調査する指標で、「50」が良いか悪いかの境目ですが、年初に「57」程度だった指数は、10月で「50.2」と50ぎりぎりにまで低下しています。企業から見た景況感は確実に落ちています。FRBとしては、金利を上げ過ぎて企業業績、ひいては景気そのものを冷やしすぎることはぜひとも避けたいところです。