政府は次の日銀総裁に元日銀審議委員の植田和男氏を起用する人事を固めた、と報じられた。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「黒田総裁はアベノミクスを推進し、異次元の金融緩和を行ってきたが、その金融政策は限界だ。新総裁は日本経済の将来のためにも金利を上げるべき」という――。
暗い部屋で、光が当たっている一万円紙幣
写真=iStock.com/itasun
※写真はイメージです

日銀の黒田東彦総裁が4月に退任し、新総裁が就任します(政府は次期総裁に元日銀審議委員で経済学者の植田和男氏の起用を固めた、と報じられています)。

黒田総裁はアベノミクスを推進し、「異次元」と言われるまでの金融緩和を行い、一時は景気浮揚に成功したものの、任期の後半にはそのカンフル剤が効かなくなり、異例の10年国債利回りの金利調整まで行う「イールドカーブ・コントロール(YYC)」を行いましたが、金融政策の限界が来ていることは明らかです。

アベノミクスの功罪

ここで、黒田総裁が推し進めたアベノミクスの内容をざっと振り返りましょう。

2012年12月の総選挙で民主党から政権を奪還した自民党の安倍晋三政権でしたが、その政策の中心は金融政策、いわゆる「アベノミクス」でした。異次元の金融緩和、機動的な財政出動、成長戦略が「3本の矢」と言われたのですが、実際には金融政策の「異次元緩和」がその中心となりました。

少し専門的になりますが、異次元緩和の説明をします。それはマネタリーベースを2年間で倍にするというものです。マネタリーベースとは、日銀が直接コントロールできる資金量のこと。コントロールする対象は①日銀券などの現金通貨、②日銀当座預金の二つの合計です。②の日銀当座預金は、各金融機関が日銀に預けている預金。準備預金を強制的に置かせることができるので、日銀がある程度直接コントロールできる資金量です。

異次元緩和が開始された当初、マネタリーベースは、現金通貨が約85兆円、日銀当座預金は約50兆円の合計約135兆円でした。それを2年間で倍にしようとしたのです。

具体的方法は、金融機関が保有する国債を買い取り、その代わり金を日銀当座預金に入金するというやり方です。

そして、2年後には、マネタリーベースがほぼ倍にまで増加しました。増加した大部分は日銀当座預金です。国債を民間金融機関から大量に購入したわけです。

当初は、金融緩和を好感し、一時は80円を切る水準まで買われた円が円安方向に動き、7000円台まで落ちていた日経平均株価も大きく躍進しました。カンフル剤が効いたわけです。

そして、異次元緩和から2年経った頃には、黒田総裁は「成長戦略へのバトンタッチ」をしきりに述べていましたが、政府からはなかなか有効な成長戦略は出ず、逆に異次元緩和が功を奏したため、その継続を安倍政権からは強く求められました。それに呼応するように、異次元緩和は継続され続けました。