限界に達している異次元緩和

現状では、現金通貨は約125兆円、日銀当座預金は515兆円程度、マネタリーベースは640兆円という、当初の5倍程度まで膨らんでいます。異次元がさらに異次元になったのです。

それでも、効果が十分に出ないので、世界の他の中央銀行では通常は行わない、長期金利(10年国債利回り)のコントロールを行う「イールドカーブ・コントロール」まで始めました。現状では0.5%程度に誘導されています。

2022年12月までは、10年国債利回りの上限を0.25%に置いていた日銀ですが、インフレにともなう世界的な金利上昇の中で、日本だけが低金利を維持するのは困難と考えた海外の投機筋が日本国債の売り浴びせを行い、国債価格が下落(金利は上昇)しました。

その際に、日銀が金利コントロールを行っているのは、10年債だけですから、その他の期間の国債の利回りとの間で、通常では考えられないようないびつな金利体系が生まれました。その状態を維持することが不可能となった日銀は10年国債の利回り上限を0.5%にまで引き上げました。

また、10年以外の国債の利回りをある程度平準化するために、日銀は低利での貸出しを民間銀行に対し行い、それを活用して銀行が10年債以外も買えることを行っています。銀行としては低利で借りてそれで利回りの出る国債を買えば儲かるので、国債を買うわけです。イールドカーブ・コントロールを維持するために「何でもあり」の状況となっています。

今のところ、なんとか「平穏」を保っていますが、最近では10年債では再び上限の0.5%に近づいており、また、海外勢が売り浴びせを行う可能性があります。

【図表】新発10年国債利回りとコールレート

また、保有する国債は約580兆円で、発行額の半分以上を日銀が保有するという状況となっており、政府のファイナンスを実質的に日銀が担っているという、こちらも異常な状況となっています。第2次大戦時の反省から、日銀に直接国債を引き受けさせないという財政法5条の規定が実質的には無視された状況となっているのです。いったん国債を民間銀行に購入させてはいるものの、日銀がファイナンスをしているのと同じで、政府の財政規律を大きく損ねている状況です。