インドの著名エンジニア、ソナム・ワンチュクさんは、インド北部のラダックで劇的な教育改革を主導し、2018年に「アジアのノーベル賞」と呼ばれるマグサイサイ賞を受賞した。ソナムさんはいま、「落ちこぼれのための学校」を立ち上げ、運営に当たる。子供たちに必要な学校、教育とは何か。フリーライターの川内イオさんが、現地でソナムさんに聞いた――
インタビューの様子
撮影=齋藤陽道
インタビューに応じるソナム・ワンチュクさん

「アジアのノーベル賞」を受賞したインドの教育改革家の正体

9月某日の朝、インド最北に位置するラダック連邦直轄領の中心地・レーでチャーターした車に乗り込んだ僕らは、一路、西へ向かった。

目的地は、インダス川沿いの小さな村フェイにある学校「セクモル オルタナティブスクール」(以下、セクモルスクールと表記)。その日、僕らは同校の設立者であるソナム・ワンチュクさんのインタビューを予定していた。

ラダックで生まれ育ったソナムさんは、インドで大ヒットして日本でも話題を呼んだ映画『きっとうまくいく』で、天才的なエンジニアとして活躍する主人公のモデルになった人物だ。

著名なエンジニアでもあり、インドでイノベーター、教育改革家と称されるソナムさんは、世界の課題に挑む個人や組織を顕彰するロレックス賞(2016)、「アジアのノーベル賞」と言われるマグサイサイ賞(2018)などを受賞してきた。

ソナムさんはなぜ教育に身を投じ、実際にどんな教育をしているのだろうか?

SECMOL CAMPUSと書かれた看板
撮影=齋藤陽道
セクモル オルタナティブスクールのゲート。

レーを出発してからおよそ45分、映画の影響で世界的に名を知られるようになったセクモルスクールは、フェイの村はずれにあった。校舎は、岩と石が転がる荒涼とした山間にあり、その山すそを、インダス川がとうとうと流れている。

学校の敷地内はきれいに整備されていて、緑も多くて気持ちがいい。校内にだけ草木が豊かに茂っているのは、1998年の開校以来、1000本を超える樹が植樹されてきたからだ。