1000試合開催して「一度もクラスターを出していません」
【村井】「サッカーは文化だ」と言うのなら、やはりスタンドには主観の主体であるファン・サポーターの姿がなくてはおかしい。ファン・サポーターあってのJリーグなんです。だから4カ月中断して、待って待って、ようやく制限付きでお客さまを入れることができた。年間の公式戦は1000試合を超えますが、その9割以上を無観客ではなく、お客さまと一緒に開催し観客席からは一度もクラスターを出していません。
理念で「文化」をうたっている以上、われわれはファン・サポーターと常に共にあらねばならない。極論すれば無観客試合というのはJリーグの理念に反する。ここが最後のよりどころになるわけです。理念を背負っている強さ、とでも言うのでしょうか。
――村井さんがいたリクルートは、創業者の江副浩正さんの頃から主観と客観を上手に使い分ける会社でした。創業期からPC(プロフィット・センター)制度を導入して、現場に採算責任を追わせて業績を見える化した。小さな社長がいっぱいいる状態で江副さんは「社員皆経営者主義」とも言っていました。数字で徹底的に競わせる仕組みです。
客観だけではいい仕事もいい会社も生まれない
――一方で目標を達成したり、新人が初受注したりすると天井から「祝目標達成!」の垂れ幕がかかる「垂れ幕文化」があり、志布志(鹿児島県)や安比(岩手県)の農場で牛の乳搾りや芋掘りをし、キャンプファイヤーを囲むキャンプがあったりして、主観の集合である「リクルート文化」を醸成することにも熱心でした。
【村井】そうですね。ビジネスモデル、ナレッジ、ケーススタディ、ベストプラクティス。こんなのはガンガンやっていた記憶があります。こうした客観的なロジックは見えやすいし伝わりやすいので、お客さまに説明するときなどは便利です。
でもこうした客観的な仕組みってのは、すごく真似しやすいものなんですね。客観だけで仕事をしていると競合に簡単にコピーされちゃう。
一方、数値で表せない微妙な塩梅、秘伝のタレみたいなヤツは簡単に真似できなかったりします。リクルートだけじゃなくて日本の企業というのは昔から運動会をやったり社員旅行をやったりして独自の企業文化を育んできましたよね。
私がチェアマンになってからも客観のロジックだけでバーンと押すと「村井さんの言っていることはもっともらしいし反論もできないんだけど、なんか腹落ちしないんだよね」という反応が返ってきました。Jリーグは今まさに、独自の企業文化を作りつつあるところなのかもしれません。