もうひとつの重要組織「ファシア」

もうひとつ、一般の人にはほとんど知られていないけれど、体の動きや痛みに直接関係し、整形外科視点ではとても重要な組織について触れておきます。それがラテン語で包帯、包むものを意味する「ファシア(筋膜)」です。

矢印の部分がファシア(写真は鶏肉)。 写真=『完全版 自律神経が整う 肩甲骨はがし』より
矢印の部分がファシア(写真は鶏肉)。(写真=『完全版 自律神経が整う 肩甲骨はがし』より)

全身に張り巡らされ、臓器や骨、血管などを包むごく薄い半透明の膜まくで、筋肉を取り巻く筋膜もファシアの一部。主にコラーゲンと水分でできています。鶏肉を調理している時に透明の薄皮のようなものを見たことがありませんか? それこそファシアです。みかんの皮を剥むいた時に皮と実の間にある、白い筋状の線せんい維と薄い膜を合わせた部分もファシアにあたります。2020年にノルウェーで発表された筋肉痛の研究では、ファシアの中に痛みを感じるセンサーがある、ということもわかりました。

筋肉や臓器を取り巻くファシアが三次元的に動くため、私たちはスムーズに体を動かせます。しかしファシアが硬くなると筋肉や臓器に癒着してしまい、体を動かしにくくなり、痛みも発生。ファシアは動かさないと硬くなり、動かすと柔らかくなる性質を持っています。運動不足だったり、長時間同じ姿勢でデスクワークをしたり、寝返りを打たずに寝続けたりすると、ファシアが硬くなり、筋肉の動きにくさや痛みが発生。また、ファシアが癒着していると菱形筋りようけいきん僧帽筋そうぼうきんが連動し、よい姿勢をとりづらくなります。

慢性的な肩こりで腕が上がらない場合は、筋肉と脂肪を取り巻くファシアの動きが悪いことも原因の一つ。このファシアがほぐれて動きやすくなると、筋肉の動きもなめらかになります。お風呂に入って温めると楽になる時は、ファシア由来の肩こりの可能性が高い、と言えるでしょう。ちなみに、マスクを長時間つけていると耳の後ろを圧迫され、ファシアの動きも悪くなる、という興味深い報告もされています。

肩甲骨とファシアにアプローチする「肩甲骨はがし」

肩甲骨とファシアの両方にアプローチできるのが、私が提唱する「肩甲骨はがし」です(次ページ参照)。

遠藤健司『完全版 自律神経が整う 肩甲骨はがし』(幻冬舎)
遠藤健司『完全版 自律神経が整う 肩甲骨はがし』(幻冬舎)

背中に貼り付いた肩甲骨をベリッとはがし、内転、外転、挙上、下制、上方回旋、下方回旋の6つの動きをスムーズにすることで、肩甲骨に関わる17個の筋肉の柔軟性を高めます。

毎日続けることで肩と首のこりが解消し、上半身のむくみ、頭痛、目の痛み、めまい、倦怠感やプチうつまで、さまざまな不調も楽に。

大事なのは短くてもいいのでこまめにやることです。長い時間をかけて、一日1回やるより、1回あたり1分以内でいいので、何度もやる習慣を目指してください。

ベッドの上でも、テレビを見ながらでも、デスクワークの途中でもできるので、最低でも、朝・昼・寝る前の一日3回を習慣にしましょう。