吉野家のたれの秘密は白ワインにあり

1958年に吉野家を株式会社とした松田さんは年商1億円をめざし、いかに牛丼を効率よく売るかに心血を注ぎ始めます。そのなかで、メニューを牛丼に絞り、具も豆腐やたけのこなど牛鍋には定番だった具材をやめ、牛肉と玉ねぎのみとし、カウンター中心の店づくりや、作業手順の確立やオペレーションなど、いまの吉野家の原点を創り上げていきました。

吉野家のたれの主な材料は、醤油、白ワイン、しょうがなど、とてもシンプルです。松田さんは「毎日食べても飽きない、胃がもたれない牛丼を」と、ご自身でたれを調合していました。くわしい調合の割合は秘密でしたが、なんと醤油よりも白ワインが多く使われています。

吉野家の牛丼
吉野家の牛丼(写真=Dinkun Chen/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

セントラルキッチンシステムの草分けだった

松田さんが外食産業史に残した足跡は、単品特化のビジネスモデルだけにとどまりません。吉野家はセントラルキッチン導入の草分けの一つでしたし、フランチャイズ方式の多店舗展開のビジネスモデルを生み出したのも、松田さんでした。

そして、単品特化を含め、そのいずれにも、根っこには「回転率の向上」の飽くなき探求があったのだと思います。セントラルキッチン方式を導入したのは、店舗での調理作業を少なくすることで、注文から提供までの時間を短縮し回転率を向上させることが目的の一つでした。

また、回転率が高く、利益率の大きいビジネスモデルの構築こそが、フランチャイジー方式による多店舗展開の成功の原動力となったのです。つまり、「早い」です。

うまい、そして“まずくない”

松田さんが最初に立てた目標は年商1億円でした。席数24という狭い店舗で、それをなにがなんでも達成するという意識で、回転率の向上を至上命題として試行錯誤を重ねた結果、単品特化というビジネスモデルができ上がっていったのだと思います。

吉野家の牛丼の具材は牛肉と玉ねぎだけですが、牛丼は牛鍋やすき焼きをルーツとしていたので、当初はしいたけや豆腐など他の具材も入っていました。が、スピードを追求するなかで、牛肉と玉ねぎだけに純化していきました。松田さんが最も重視していたのは、なにより「早い」だったのです。

「早い、うまい、安い」に「うまい」が入っていることが示すように、松田さんは決して味を軽視していたわけではありません。「早い」を実現するオペレーションや、「安い」と対立しないかぎり、「うまい」も追求していました。

「食べ物の味っていうのにはな、うまいとまずいだけじゃなくて、『まずくない』というのがあるんだ。1000円の牛丼ならうまいのはあたり前だろ。でもな、吉野家の安くて、うまくて、早いというのは、まず『まずくない』のが大事なんだ」

これが、松田さんの口癖でした。そこまで徹底しなければ、回転率を極限まで上げ、24席の店で年商1億円という目標は達成できなかったのだと思います。