ひるがえって「勝ちたい」という気持ちには、欲望と同じでどこまでいっても満足というものがない。

満足がないゆえに常に不安を抱え、心から幸せな気持ちになることはない。そこからほころびや脆さが生じてくるのである。

自然界の生き物の本能に学べ

自然界の生き物はみな、熾烈しれつな生存競争の中でどうやって生き残るかという本能のレベルで生きている。彼らには当然「勝ちたい」という欲望はない。あるのは、敵や環境に対して「負けない」という本能だけである。

桜井章一『勝とうとするな 負けの99%は自滅である』(プレジデント社)
桜井章一『勝とうとするな 負けの99%は自滅である』(プレジデント社)

もし、彼らに「勝ちたい」という欲望があったとすれば、どうなるか。

天敵の餌食えじきとなる生き物は限りなく増え、最後は生態系の上位にある生き物だけが生き残ることになってしまう。いや、実際にはそれすらもない。

捕食する獲物がいなくなれば、当然、それを捕まえて生きている生物も死に絶えるだろうし、多様性によって成り立っている自然界の秩序が根底から崩され、地上から生命を持った生き物はいっさいいなくなってしまうだろう。

そんな光景はSF的な空想でしかないが、人間は実は自分たちの社会でこれをやってしまっている。自然界の生き物を例にするとよくわかるが、みながみな「勝ちたい」という欲望で生きていけば、環境問題をはじめ、そこにさまざまな問題が生じるのはきわめて当たり前の話なのである。

勝つことには節度が必要だ

1ついっておかないといけないのは、私は、「勝ちたい」という気持ちを否定しているわけではないということだ。

「勝ちたい」と思うのは一種の人間のごうでもある。これはどんな人でも抱いてしまう感情だ。とくに若いときはそのようなエネルギーであふれているものだ。