「弟はレギュラーになれたのに」

Aくんは小学生の時、お母さんに強く勧められて、弟と一緒に地元の野球チームに入りました。しかし、そもそも野球が好きではなく、やりたかったわけでもないAくん、なかなか練習に身が入りません。一方のお母さんには、「息子には野球を通して体力をつけ、身体能力を高めたり、他人と協力して目標を達成する喜びを知ってほしい」という思いがありました。

そのうち、Aくんはレギュラー争いに敗れることが続き、「もうやりたくない」と口にしました。しかし、「スポーツはよいことだ」と思っているお母さんは、「もっと頑張れないの?」と励まします。

Aくんはそのことを、いつも責められているように感じていたほか、「弟はレギュラーになれたのに」と比べられることにも傷ついていました。やがてAくんは練習に行かなくなり、結局、中学半ばでチームをやめてしまったのです。

その後も、お母さんは野球で活躍する弟を熱心に応援。家族間の話題は弟の野球が中心になりました。Aくんはその時の気持ちを、「親の関心がすべて弟に向けられて、見放されたような気持ちになった」といいます。友達とケンカしてケガをさせてしまったのも、そうしたイライラが募り、自制心が利きにくくなったことに一端があったようです。

小さい時は何でも話してくれたのに

話を聞くうち、実はAくん、野球をやめたころから、殻に閉じこもるようになっていたことが分かってきました。両親が話しかけても無視したり、部屋に閉じこもって食事の時も出てこなかったり、朝起こそうとしても起きて来なかったりしたそうです。

こうした変化についてお母さんは、さほど気にしていなかったようです。「同じ屋根の下に住んでいて、毎日顔は見ているので、子どものことはわかっているつもりだった」と。ところが、友達にケガをさせたことについて話し合おうとしたところ、それがかなわなかったことから、「子どものころはあんなにかわいくて、何でも話してくれた息子が、ろくに口も利かなくなってしまった」と急に心配になってきたようです。