「輸出ドライブ」をかける
もうひとつは、輸出です。現状は、図表2にあるように、2020年度はかろうじて黒字でしたが、このところは貿易赤字が続いています。それを、円安を利用して反転させるのです。
日本には機械や自動車、さらにはアニメなど優秀なものは多くあります。なかでも今、注目したいのは、農林水産物です。日本の農林水産物は、品質も高く、中国はじめ多くの国で注目されています。とくに、中国からのインバウンド客が当面は大きく期待できないのなら、農林水産物や食品をこれまで以上に多く輸出することを考えればいいのです。円安を大いに生かせます。
実際、今年の1〜8月の農林水産物の輸出は過去最高の8826億円です。政府は2025年に2兆円を目指しているようですが、それを加速するチャンスです。
とくに、米の輸出を促進すべきです。小麦が世界的に高騰する中、米を代替品として輸出することは可能だと思います。日本でも米粉のパンも出回っています。また、米国では、小麦由来のグルテンに対して、健康上の懸念を感じる人も少なくなく、スーパーなどでは「グルテンフリー」の表示をよく見かけます。円安と小麦高を利用して、日本の米などの農林水産物の輸出ドライブをかけるチャンスです。輸出も、インバウンドほどすぐではないにしろ、円安のメリットを生かせる即効性が期待できます。
製造業の日本回帰を
最後は、製造業の国内誘致です。インバウンドや輸出ほど、すぐには結果が出ませんが、長期的には、日本にとってはとても大切なことです。
製造業の国内誘致には、2パターンあります。ひとつは、世界有数の半導体製造業のTSMCが熊本県菊陽町に工場を建設するように、海外資本の国内進出を促すことです。進出企業も円安のメリットを大いに享受できます。
さらには、主に中国に進出している日本の製造拠点を日本に回帰する動きを促進することです。今の円安水準なら、国内製造でも十分に輸出競争力がある製品を作れる企業は多いはずです。
さらには、ロシアのウクライナ侵攻以来、中国が一方的に台湾を統一するリスクを懸念する声も高まっています。台湾での緊張が高まった場合には、米国は経済的にも中国に大きなプレッシャーをかける可能性は低くなく、日本企業もそれに巻き込まれる可能性があります。中国からの部品や製品の調達などは、経済安全保障上も懸念があるということです。
今の円安水準が、いつまで続くかはだれにも分かりませんが、日本のファンダメンタルズを考えれば、しばらくは続くような気もします。
経済安全保障などを考えた場合に、製造業を日本に回帰することを政府は真剣に考えるべきで、そのための補助金を強化するなどの政策を展開すべきです。製造業の日本への回帰は、日本の製造技術を生かし、さらに強化できるとともに、新たな雇用を生み、地域活性化や税収増にも役立つことは言うまでもありません。
いずれにしても、円安を生かし、インバウンド、輸出、製造業誘致を促進するべき時だと考えます。