難しい局面を乗り越え、生前退位を実現

これを受けて政府や国会は具体策を検討することになり、さまざまな議論ののちに、今回限りの「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」が2017年6月に制定され、2019年4月30日に退位されることになりました(「譲位」という人もいるが、正式には法律で退位という言葉が使われています)。

そして退位後、陛下は上皇、皇后陛下は上皇后と呼ばれ、陛下を尊称とすることになりました。

本来は、かなりの時間をかけ、また、将来のさまざまなケースへの影響も考慮しながら制度論として処理すべき問題でしたが、陛下ご自身が理想とされる君主像を、体力の衰えのなかで保てないのは心苦しいと感じられているということ、また、「おことば」を玉音放送としてとらえ、その通りに従うべきという象徴天皇制と相容れない国民の素朴な感情が湧き出たという難しい局面でした。

それを、安倍内閣は非常に慎重に、陛下のご希望と、象徴天皇制の建前を傷つけないように調整し、円滑なご退位を実現したわけです。

退位をきっかけに深まった上皇陛下との絆

私は、最後に安倍さんにインタビューしたとき、「陛下と総理のコミュニケーションは実際、どうなっているのですか」と聞きました。「内奏のときや、お会いしたときにお話しはするのだが、突っ込んだ話はなかなか難しかった。ただ、ご退位の話が出てからは、具体的に問題を説明したり、ご希望を聞いたりしないといけないので、かなり詳しいお話ができる機会が増えた」といったことを話されました。

また、「事務的には宮内庁長官と内閣官房副長官が窓口ですか」という質問には、「その通りだ」ということで、さらに、「それ以外に、陛下の意を呈した方がお言葉を伝えに来るといったような非公式のルートもあるのですか」と聞いたら、「それはない」とのことでした。

また、総理在任中に「皇太子殿下(当時)としっかり話をされることはないのですか」と聞いたことがありますが、「ほとんどない」ということでしたので、「皇太子殿下を教育するのは、古今東西、宰相の大事な仕事のはずですから、工夫して機会を持たれるべきです」ということを進言したことがあります。