繰り返し買ってもらうためには正直に全てを話す

①悪いところを晒け出す

営業はマッチングである、というのが私の基本的な考えです。「いいものとは何か」を突き詰めて考えれば、「そのお客さん」が望むもののことです。それが隣の人にとっていいものではなくても、何の不思議もありません。

現代の日本のような成熟社会においては、基本的に市場に出回る商品は一定の水準に達しています。役に立たないような悪いものは存在せず、ひとつのモノサシの上での良し悪しというよりも、「その人」のニーズに合っているか合っていないかで選ばれていると言えます。

売りたい商品を多くの人に良く思ってもらいたいのは当然です。しかし、たとえ売れたとしても、そのお客さんにフィットしていない取引が、良い取引とは言えません。1回なら売り逃げることも可能かもしれませんが、繰り返しの売買の中で買い手と売り手が良好な関係を築くことは難しいでしょう。

本来、取引とは、その商品がマッチするお客さんに買ってもらって初めて成り立つものです。ものを売る、とは、それを望むお客さんを本気で探すことだと私は考えています。

特に野菜のような単価の低い日用品は、繰り返し買ってもらえなければ商売としても意味がありません。顧客にウケるような美辞麗句を並べるよりも、いいことも悪いことも正直に伝えて、お気に召したらどうぞ、という姿勢でいる方が、結局は自分に合う顧客を探すことにつながります。

「有機」「オーガニック」をあえてうたわないワケ

若い頃に、テレビ番組で久松農園が紹介されたことがあります。その時は、放送直後から注文が殺到してしまいました。膨大な注文にひとつひとつ丁寧に対応しましたが、思うように処理ができず、「届くのが遅い」「パッケージが悪い」など、それまでほとんどなかったクレームが多発しました。

中には「野菜セットだと言うから買ったが、野菜しか届かなかった」という、よく分からない文句を言う人もいました。大変な思いをしましたが、テレビを見てすぐに連絡してくるタイプの人は、そもそもよく説明を見ていないんだな、という学びがありました。

「有機」「オーガニック」というワードも曲者です。消費者の中には、未だに「有機野菜は安全」「農薬は危険」という認識を持つ人も少なくありません。有機農業をやっていることを殊更に謳うと、そういうタイプのお客さんが集まってしまうことも多いので、現在はほとんど謳わないようにしています。お客さんの中には、久松農園の野菜が有機野菜であることを知らない人も多いようです。

写真=著者提供

何かを売ろうとすると、つい間口を広く取ろうとしてしまいますが、自分の守備範囲などたかが知れています。等身大の己の好き嫌いを前面に出して、それを選んでくれる顧客としか取引は生まれないと割り切る方が、結果的に良い縁に恵まれる気がします。もちろん、十分な数の顧客を得るまでに長い時間がかかることは覚悟しなければなりませんが、実力以上に売ろうとしても、長続きはしないというのが私の結論です。