「つまらないものですが」スタンスではダメ

②ドヤ顔でおすそわけ

久松農園の基本スタンスは、自分たちが食べたいものを育てて、お客さんにもおすそわけする、というものです。食べたいものではないが、売れるからつくるということはほとんどありません。

風呂敷は日本の包む布
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです

たまに、スタッフの意見で目新しいものを取り入れたり、売上が欲しくて流行りに寄せたりもしますが、いい結果を生んだことがありません。そもそも判断が日和る時というのは、困って迷いが生じた時です。追い詰められて普段と違うことをやるのは、スポーツの試合で練習したことのない技を出すようなもの。万が一うまくいったとしても、続くわけなどないのです。

時にはそんな失敗もありますが、大抵はまずは自分の食べたいものをつくって、自慢気に人にも勧めることを心がけています。「ドヤ顔でおすそわけ」というのが私たちの販売コンセプトです。おすそわけと言っても、「つまらないものですが」と差し出すのではダメです。小学生男子が100点の答案用紙を母親に走って見せに来るように、「自慢気」でなくてはいけません。

「かぶが甘くてすごく美味しかった」というお客さんの感想に「ありがとうございます」ではなく、「でしょ!」と言いたい。私たちも美味しいと思う。それを共有できて嬉しい、という気持ちでいたいのです。

お客さんから「あなたは、買っていただいてありがとうございます、って態度じゃないのよね」と皮肉を言われてしまったこともあります。失礼なことを言う意図はないのですが、へりくだるのはやはり違います。

「つくる自分」と「売る自分」は同じか

素直に感謝を伝えるのはいいことですが、お客さんの好みにおもねるものづくりをしていてはいけない。私たちの今のベストを自信を持ってお届けする。ミスがあれば率直に謝る。それでも気に入ってもらえなければ、力不足か、好みが違うだけ、と思うようにしています。

農業は生き物相手の仕事で、計画通りには進みません。思い通りにいくことの方が少ないくらいです。ドヤ顔になりきれず、悔しい思いで野菜を売る瞬間もあります。そのことについてスタッフ間で議論にもなります。

そんな時に私が話すのは、つくる自分と売る自分が引き裂かれる気持ちから逃げてはいけない、ということです。矛盾を飲み込んで、お客さんが喜んでいればそれでいい、と、機械的にありがとうを言うようになったらおしまいです。矛盾は矛盾のままで、素直に晒せばいいのです。

そして、ドヤ顔の日を一日でも増やす方向に努力すること。スタッフのひとりひとりの意見の違いも含めて、私たちが何に喜び、お客さんに何を感じて欲しいかを正直に晒すことが、結局は一番の営業になるのではないかと思っています。