「売れれば何でもいい」という虚しい考え

③最良のコンテンツが最良のSEO

ものをつくる人間として最も虚しいのは、売れていれば何でも構わないという考え方です。

自社のウェブコンテンツを検索結果上位に表示させるため、検索エンジンに最適化する改善をSEOと言います。私も、売上に困っていた時期に、もっとあざとく集客に力を入れた方がいいのでは、と考えてSEO対策のセミナーを聞きに行ったことがあります。その時の講師は、講義の2時間を通して技術的な話を全くせず、失敗談だけを語ってくれたのがとても印象的でした。

その方は、SEOの会社を始めて間もない頃、ある法律事務所からの依頼を受け、張り切って初仕事に取り組んだそうです。カッコいいホームページをつくり、学んだばかりのテクニックを駆使したコンテンツづくりをして、クライアントのページはたくさんのビュー数を集めました。

問い合わせも激増し、鼻高々になっているところに、クライアントから怒りの電話が。びっくりして話を聞くと、検索上位になったネット経由で来る問い合わせのほとんどが、冷やかしや、安く使い倒そうという悪質なものばかりだというのです。「二度とあなたに仕事を頼まない」という捨て台詞で電話は切られたそうです。

顧客はかき集めるものではない

彼は、その後しばらく考えて、過ちに気づきました。普通の人は、法律の相談事が生じた時、友人や親戚など個人的なツテをたどって相談に乗ってくれる法律家を探すだろう。いきなりインターネットで検索して、安く相談に乗ってもらおうと考えるのは、周りと良好な人間関係を築けていない人に多いのではないか、と。顧客は「かき集める」ものではない。時間をかけて、自分の仕事に合うお客さんを探すのが結局は近道だ、というのが結論でした。

久松達夫『農家はもっと減っていい』(光文社新書)
久松達央『農家はもっと減っていい』(光文社新書)

時は下って、久松農園の最初のホームページをつくってくれた人も、同じような考えの持ち主でした。SEO的なこともやったほうがいいでしょうか? という私の質問は、「最良のコンテンツが最良のSEOだ。自分の事業をひたすら磨きなさい」と一蹴されました。

集客は必要です。しかし、それは結果であって、目的ではありません。「上手に対策を施した」集客のための集客に陥ると、自分のやりたいことを本当に支持してくれる顧客と出会えなくなります。

私は商品の宣伝活動にお金を使うことがほとんどありません。それでも、農園や私の活動に関する情報の量は、大手の農業法人に負けていません。商品を前面に出すよりも、自分の考えを根気強く発信することが、結果的に良質な顧客の獲得にプラスに寄与していると考えています。

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