同紙はまた、実際に料理を味わったジャパン・タイムズの記者のコメントを引用している。頬張ったあとの感覚は、「恐怖から喜びへと、嵐のあとの海原のように変わってゆく」とのことだ。異様な見た目におっかなびっくりとなるが、いざ食べてしまえば豊かな味わいを楽しめたようだ。

ドイツメディアが驚いた日本の昆虫食ビジネス

楽しみながら昆虫を食べるための試みは、ほかにも日本各地にみられる。

東京にはスズメバチの幼虫などを提供する常設の飲食店があり、熊本では自販機で食用のタランチュラ(厳密には昆虫ではないが)が販売されている。日本では昆虫食がすでにビジネスとして成立しつつあるとして、海外メディアが注目している。

ドイツ国営の国際放送局であるドイチェ・ヴェレは今年1月、「なぜ日本では虫が一大ビジネスになってきているのか?」と題する記事を掲載した。

記事は例として、日本の食材専門店では、クモやコオロギ、セミなど、あらゆる昆虫を使った食材がそろうとしている。また、昆虫食の通販企業であるTAKEOは昨年10月、浅草に実店舗の軽食レストラン兼販売所の「TAKE-NOKO」をオープンした。タガメ1匹がそのままの姿で入ったサイダーや、コオロギ入りのアイスもなかなどを提供している。

ドイチェ・ヴェレによるとTAKEO社は、「通常より冒険好き」な人々が好んで来店していると説明している。食料問題解決のために昆虫を食べた方がよいという義務感よりも、めずらしい体験をしたいと心を躍らせて来店する人々が多いようだ。

昔から食文化の一部だった

このように日本では、昆虫食をより気軽に楽しむための土壌が整っている。社会への浸透度は、環境問題を声高に叫ぶ欧米以上ともいえそうだ。

その背景として、昆虫への抵抗感の低さが挙げられるだろう。日本では遅くとも江戸時代から庶民に浸透していたほか、戦中・戦後の食糧難の時代にイナゴを佃煮にして貴重なタンパク源とするなど、虫を食卓に取り入れてきた経緯がある。今もなお、郷土料理として長野などに根付く。

イナゴの佃煮を箸につまみ見つめる男性
写真=iStock.com/petesphotography
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ドイチェ・ヴェレは、「日本には昆虫を消費してきた長い歴史がある。田舎の多くの町では、揚げたり砂糖をまぶしたりしたコオロギが子供のおやつとして売られている」と説明している。もちろん、実際には日本のすべての土地で昆虫を食べているわけではないが、かなり浸透しているとのイメージがあるようだ。

現在ではその実体験をもつ人は限られるようになったが、こうした文化を私たちは少なくとも知識としては知っている。そのため、昆虫食への抵抗は比較的少ないのかもしれない。