このような地球規模の問題は、正直なところ実感が湧きづらい面もあるだろう。ただ、より身近な問題としては近い将来、コスト面で昆虫食を選ぶメリットが出てきそうだ。
BBCによると、畜肉の価格は2050年までに30%上昇すると考えられているという。昆虫は味がよく、栄養も豊富なことから、牛・豚・鶏肉の代用として高いポテンシャルを秘めているようだ。
パンデミックによる物流の混乱と、ウクライナ情勢による物価上昇も、昆虫食拡大の契機となる可能性がある。米フォーチュン誌は、ウクライナでの戦争の終結後も、気候変動を原因とした不安定な収穫状況が続くとみる。
同誌はその際、動物性タンパク質を安定して供給できる昆虫ファーム(昆虫繁殖工場)が、代替タンパクの安定した供給源になるだろうと予測している。
図らずも昆虫食の先進国になった日本
日本の一部地域で根付いてきた昆虫食の文化は、当時の食料事情を受けて発展してきたものだ。必ずしも21世紀の気候変動を見据えての取り組みだったわけではないだろう。
だが現在、くしくも世界では、今後の地球環境にマッチした試みとして昆虫食に熱い視線が注がれている。偶発的な要素があったとはいえ、結果的には日本やアジアは欧米社会を差し置いて、昆虫食を先駆的に取り入れている国のひとつとなっている。
もちろん現状では全員が昆虫を食べているわけではないが、イベントごととして楽しみながら受け入れる下地があるといえそうだ。日本ではコース料理やおやつの一部、そして土地の魅力を味わう郷土料理として、昆虫食を自発的に楽しむ機会に溢れている。
これは他国の昆虫食事情とは少し異なる。アフリカではバッタなどが好んで食用されているが、食料不足を補うという性格も強い。他方、アメリカやヨーロッパでは環境問題を念頭に、半ば「正しいこと、なすべきこと」としての義務感のようなニュアンスを伴っている。
もしも畜肉価格が現実に30%上昇するならば、いずれ食品に昆虫由来の成分を取り入れる時期がやってくるだろう。その際、世界のなかでも比較的楽しみながらその変化を受け入れることができるのは、意外にも日本なのかもしれない。