「年をとると忘れやすくなる」というのは本当なのか。老年医学の専門家である和田秀樹さんは「若者と年配者の記憶力に大差はない。しかし『高齢者は忘れやすい』という先入観を植えつけられると、年配者は記憶する意欲を失いやすい」という――。(第2回)

※本稿は、和田秀樹『70歳の正解』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

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記憶力が衰えるのは「覚えようとする意欲」が低下するから

「80代になると、認知症の有病率が60代の12倍になる」ということが知られていますが、脳の健康寿命を延ばすには、60代から70代にかけて、とにかく「脳」を使い続けることが必要です。

高齢者の場合、筋肉を使わないでいると、たちまち「廃用現象」が起きて衰えてしまうのですが、それは脳に関しても同じこと。頭を使わないで暮らしていると、脳はいよいよ衰えてしまうのです。

たとえば、老化の象徴のようにいわれる「記憶力」に関していうと、たしかに「年をとると、記憶力が落ちる」というのは、一般的に“常識”といえるでしょう。しかし、ここではっきりいっておきますが、脳機能上は、75歳くらいまでは、記憶力はさほど衰えません。急激に衰えるのは、「覚えようとする意欲」です。

若者と年配者の記憶力にはあまり差がない

米タフツ大学のアヤナ・トーマス博士らのグループは、次のような実験を行いました。18〜22歳の若者、60〜74歳の年配者を各64人ずつ集め、多数の単語を覚えてもらったあとに、別の単語リストを見せて、それらの単語がもとのリストにあったかどうかを尋ねたのです。

その際、まえもって「これは、ただの心理学実験です」と説明していたときには、若者と年配者の正解率は、ほとんど変わりませんでした。ところが、テストまえに「この記憶試験では、高齢者のほうが成績が悪い」と告げておくと、年配者グループの正解率のみが大幅に低下したのです。

要するに、この実験では、フラットな状態では、若者と年配者の記憶力に大差はないが、「高齢者のほうが成績が悪い」という先入観を植えつけられると、年配者は記憶する意欲を失い、一気に“記憶力”を減退させたというわけです。