ベテランタクシー運転手は記憶力が向上していた

ベテラン運転手は、頭の中に道路地図を詳細にインプットしたうえで、乗客から行き先を告げられると、瞬時にルートを思い浮かべ、時間帯による道路の混み具合や工事の有無なども勘案しながら、スムーズに走れるルートを導き出します。

そうした、記憶し、記憶を引き出すという作業を日々、繰り返すうちに、ベテラン運転手の海馬の神経細胞は増え、大きく発達することになったのです。つまり、「成人になってからでも、脳の神経細胞は鍛え方しだいで増える」ことがわかったのです。

その後の研究で、脳の神経細胞以上に、脳を鍛えると、神経細胞同士をつなぐシナプスの数が増えることがわかってきました。その複合効果で、年をとってからでも、若い頃よりも記憶の容量を大きくするのは、そう難しいことではないことがわかってきたのです。

というようにお話ししても、「実感からして、やっぱり記憶力は落ちているよ」という人もいるでしょう。そういう人は、試しに何かの“丸暗記”を始めてみるといいでしょう。伊東四朗さんのように百人一首でもいいし、子供のときのように国と首都の名前でもOKです。ちょっとトレーニングするだけで、記憶力がはっきりとよみがえってくることを実感できるはずです。

1万人以上の顔と名前を覚えている政治家の記憶術

私の知人に、70歳近くなっても、「1万人以上の人の顔と名前を記憶している」人がいます。その人(仮にT氏としておきます)の職業は、ホテルのドアマンではなく、「政治家」です。

むろん、T氏にとっては、有権者の顔と名前を覚えることが、当選への第一歩というわけですが、その秘訣ひけつを聞いたところ、「秘訣なんて、ありませんよ。それこそ、あらゆる方法を使って、覚えています」という答えが返ってきました。以下、その“あらゆる方法”の中から、参考になりそうな方法を紹介してみましょう。

①名刺交換するとき、相手の名前を声に出して読み上げる

これは、Tさんならずとも、多くの人が実践している方法でしょう。名刺をもらったとき、「○○さんですね。よろしくお願いします」と、相手の名前を声に出して読み上げると、目と口と耳という3つの器官から、相手の名前を入力することができるというわけです。

名刺交換
写真=iStock.com/kazuma seki
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②相手の顔の特徴的な部分に、相手の名前を“書き込む”

私が感心したTさん独特の手法は、「相手の顔の特徴的な部分に、名前を書き込む」という記憶法でした。出会ったとき、まず相手の顔のパーツから、最も印象的な特徴を見つける。おでこの広い人だったらおでこ、口の大きな人は口という具合です。そして、頭の中で、その特徴的なパーツの上に、その人の名前(漢字)を重ねてみるというのです。

広いおでこの上に「田中」さんとか、大きな鼻に「佐藤」さんなどという文字をイメージするのです。すると、その人と再会したとき、顔の特徴に注目するだけで、パーツ上に書いた文字の“残像”が浮かび上がってくるそうです。