貴重な「熊遭遇体験」を収集

第3犠牲者が入山して死亡したと思われる日の翌日、同じ場所にそうとは知らずに入り、若い熊に襲われたが、闘って生還した男性がいた。

Aさん(58)、青森県おいらせ町に住む会社員だ。この遭遇戦は今にいたるまでマスコミを賑わせている。

私は過去100年間ほどの全国紙と、熊が生息する県の地元紙を繰ってきている。Aさんのような報道を賑わせる熊遭遇体験は、時間を経るにつれて、風化するどころか、「超絶体験」に祭り上げられていくものだ。

例えば、襲って来た熊に巴投げをかけたある登山者の場合、「クマは500m落ちて空中に消えた」と報道され、22年後には週刊誌で「1700mも落ち、下の集落は大騒ぎになった」に変わっていた。

私は事件直後の7月13日夜、十和田市において、Aさんから直接話を聞いた。

直接面談したいという私の依頼に、Aさんは当初難色を示していたが、私が十和田市出身ということもあって、軽トラで指定の場所に駆けつけてくれた。

Aさんの話に誇張は全く感じられなかった。熊の状況を聞けば、話の真偽のほどは鮮明に分かるものだ。

笹藪に入った途端、猛烈な「獣臭」

「自分はタケノコ採り歴は5~6年ほどだ。

タケノコの買取り業者が25日から来るとの情報があり、下見のため5月17、18日に有給休暇を取って、田代平たしろたいの、第3犠牲者が行方不明になった地点の笹藪ささやぶに入った。途端に熊臭かった」

「26日も同じ場所に入ろうと思って、朝4時30分に軽トラで自宅を出て、五戸、倉石経由で6時過ぎに着くと今回の(第3事故)現場には既にパトカーが2台いた。

軽トラを入れるスペースがないので県道を少し戻って県道脇に車を置き、大根畑を横切って畑の作業道に入ったら、前に黒いパジェロミニ(注・証言ママ。暗くて黒に見えたか)が停まっていた。ただ、第3犠牲者の車だとは知らなかった」

「笹藪の熊の出入口をトンネルと言って、タケノコ採りの人もそこから入る。

6時45分ころ爆竹やロケット花火を鳴らしてから笹藪に入ると、途端に強烈な獣臭がした。

沢は急な谷になっているが、ところどころ平らな所があってタケノコやワラビがあった。

背中には大きなザックを背負い、腰にも籠を下げて、タケノコを4kgほど採ったらザックに移した。笹が密生していて見通しが全くなかった」