成熟市場では、カットインにももう一工夫が必要になる。仮に共感を引き出せても、競合がすでに入り込んでいれば「そうだね。A社に相談してみるよ(=あなたからは話を聞く必要がない)」と返ってくる恐れがある。この壁を破るには、商品の価値ではなく、まず自分から話を聞くことの価値を伝えなくてはならない。具体的にはコスト削減や売り上げ増などに関して、「ほかにない情報やノウハウ、経験を私は持っています」ということを伝えるべきだ。
このとき活用したいのが導入事例である。商品を購入した後、実際にどのような効果があったのかという情報は、目の前の営業担当者からしか聞けない。
「コスト30%削減を実現した同業他社の事例をお持ちしました(ワンメリット)。原油の高騰で、コスト負担が重くなっていますよね?(ワンクエスチョン)」これにより、顧客はあなたをその他大勢ではなく一人の営業担当者として認知するようになる。ただ、営業担当者個人の持つ事例には、数・質ともに限界がある。できれば組織として事例を共有して、誰でも活用できる体制を整えておきたい。
企業の購買担当者300人に取引先変更の可能性について質問したところ、「いい提案があれば検討する」「価格によっては検討する」という答えは77%に達した。しかし、実際は門前払いされるケースが少なくない。このギャップについて購買担当者にヒアリングをした結果、図のように3つの理由が浮かび上がった。顧客の警戒心を解くには、ファーストアプローチで情報提供に徹することである。
(構成=村上 敬 撮影=鷹尾 茂)