顧客の共感を引き出せたら、次はヒアリングだ。ここで注意したいのは「何か困ったことはありませんか」という質問である。基本的なニーズが満たされている現状では、課題をストレートに尋ねても、「とくにないよ」と素気なく言われるだけだ。それよりも顧客に現状を整理してもらい、普段意識していなかった課題を浮かび上がらせるという視点でヒアリングする必要がある。
まず聞くべきなのは、現在利用している商品を選択した背景や経緯だ。顧客からいきなり課題を引き出そうとすると、唐突に自己分析をさせることになる。しかし、いま利用している商品を購入した経緯なら、過去の事実であるため顧客も話しやすい。さかのぼって話を聞くことで当初抱えていた課題や選定理由が明らかになり、そこから現状の課題へと話を展開しやすくなるのだ。
ヒアリングの際は、次の3つの情報を活用したい。一つは第三者のコメント。
「先日工場にうかがったら、現場の方が○○で困っているとおっしゃっていました」「最近、他のお客様から○○について相談を受けることが多いのですが、御社はどうですか」というように第三者を使えば、「そういえば思い当たる節がある」と気づきを促せる。
一般公開された情報も効果的だ。新聞や雑誌に掲載されたニュースや決算公告は、ネタの宝庫である。「御社は今期、増収増益でしたね。いまどの部門が忙しいのですか?」と公開情報から現状の課題に切り込んでいくことも可能だ。
さらに自分で観察して得た情報も有効に使いたい。たとえばオフィスに残業ゼロ運動の貼り紙があれば、「入り口の貼り紙を拝見しました。いつから残業ゼロに取り組んでいらっしゃるのですか」と話を始め、人件費の抑制といった課題につなげていくこともできるだろう。
なかなか課題が浮かび上がらない場合は、「採点トーク」を試してもいい。「いまお使いの商品は、100点満点でいうと何点ですか」と質問するのだ。人の心理はおもしろいもので、こう聞かれると現状に満足していてもたいてい「90点くらい」と答えてしまう。そこで「あえて足りない10点を挙げるとしたらどんなところですか」と続けると、90点と答えた手前、顧客は自ら問題点を炙り出そうとする。
このように課題を浮かび上がらせるコツはいろいろあるが、これらを矢継ぎ早に浴びせて課題を特定しようとしてはいけない。ヒアリングの目的は、顧客自身に現状を整理させ、これまで意識していなかった課題を自ら発見してもらうことにあるからだ。