成熟市場では、競合と比較して優位性を認められても、即成約というわけにはいかない。競合の商品・サービスを利用してすでに基本的なニーズが満たされている以上、直ちに商品を切り替える必要性が薄いからだ。

横田雅俊カーナープロダクト代表取締役。外資系ISO審査機関にて営業職を経験。「最年少」「最短」「最高」記録を更新し、世界2300人のトップセールスに。営業に特化したコンサルティングファーム、カーナープロダクト設立。著書に『営業は感情移入』。

残念ながら商品を切り替える場合には、顧客側に時間という概念はない。営業担当者が顧客に時間軸を意図的に植え付けることで、はじめて「先延ばししてもいい案件」が「いま進めるべき案件」へと変わるのだ。

顧客にゴールの時間を意識させることを、「時限トーク」という。もっともわかりやすいのはキャンペーンだろう。たとえば「来月末まで料金1割引きのキャンペーンを実施しております」と商談の初期段階で示せば、顧客の頭の中に「ゴールは来月中」という時限装置がセットされる。

ゴールが設定されれば、顧客はそこから自然と逆算して「2週間後には稟議書を提出しなければいけない。来週中にもう一度話を聞いて、買うかどうかを決定しよう」とスケジュールを意識するようになる。こうした時間軸を顧客と共有できれば、反応はよかったものの契約は先延ばしになってしまったといった事態も減らせる。もちろんキャンペーンに頼らなくても、時限トークは可能だ。

「もし導入するとしたら、いつごろがよろしいですか」

「仮のスケジュールを立ててみてもよろしいでしょうか」

「納期から逆算すると、具体的な検討は来月から始めたほうがよさそうですね」

こうして顧客と時間軸を共有できれば、「次回までに見積もりをお出ししたほうがよさそうですね」というように、営業担当者がイニシアチブを握って商談を進めることができる。