歴史を振り返れば明らかなように、フランス革命から「アラブの春」に至るまで、食糧価格の高騰はクーデターや革命、内戦の引き金になってきた。そうでなくとも、食べるものがなければアフリカや中東の国々から大量の難民が流出する恐れがある。

こうしたリスクはアメリカ政府も承知しているが、それでもロシア軍による黒海の封鎖を解除する具体的な行動に出ない。だからウクライナの小麦は途上国に届かない。

ウクライナ軍は海上でも善戦し、ロシア黒海艦隊の旗艦「モスクワ」を撃沈したほか、水陸両用艇や哨戒艇も何隻か沈めている。

民生用の衛星画像や米スペースX社の衛星通信事業「スターリンク」を使い、トルコ製の軍用ドローン「バイラクタル」や国産の対艦巡航ミサイル「ネプチューン」、戦術ミサイル「グロム」などを駆使して敵の攻撃態勢を弱めてきた。

6月30日には黒海の要衝スネーク島からロシア軍を排除した。これで島内にネプチューンかデンマーク提供の対艦ミサイル「ハープーン」を配備すれば、ロシアの黒海艦隊には相当な脅威となる。

ただし、この島からミサイルを発射しても、貨物船がオデーサ(オデッサ)からトルコのボスポラス海峡に至るまでの航路(約500キロ)の最初の3分の1までの範囲にしか届かない。小麦を積んだ商船の安全を守るには、もっと長射程の武器が必要だ。

アナス・フォー・ラスムセン前NATO事務総長をはじめ、一部の有識者は米軍かNATO軍の艦艇にウクライナの商船を護衛させるという提案をしている。

だが米バイデン政権は、ロシアとの直接対決につながりかねないとして拒否した。首都キーウ(キエフ)上空の飛行禁止区域設定を拒んだのと同じだ。

NATO軍による護送が困難な理由はほかにもある。仮にもロシア軍の艦艇に攻撃を仕掛けるような事態になれば、欧州の結束が揺らぐのは必至だ。ドイツを含む多くの国にとって、戦線の拡大は越えてはならない一線だ。

そもそも、黒海の玄関口であるボスポラス海峡を支配するトルコが米欧の軍艦の通過を認める可能性は低い。トルコ政府は2月以来、全ての軍艦の海峡通過を禁じているからだ(黒海に常時展開している艦艇の通行は可)。

だが、もっと賢明な方法がある。小麦を積んだ商船の安全を守るために必要なあらゆる武器、とりわけ大型の無人航空機(UAV)をウクライナに提供すればいい。