<現在、ロシア領内を攻撃可能な武器を提供しないという「暗黙の了解」がある。しかし、軍用ドローン「グレーイーグル」で商船の護衛と黒海封鎖を解除でき、ウクライナに眠る2500万トンの小麦輸出が可能に:ブライアン・クラーク、ピーター・ラウ>
戦闘ドローン。写真はイメージです。
写真=iStock.com/MikeMareen
戦闘ドローン。写真はイメージです。

ロシアがウクライナに侵攻して以来、アメリカのバイデン政権とその西側同盟国が最も気を配ってきたことは何か。

この戦争をウクライナの国境と黒海の内側に封じ込めること、そしてロシアとの直接対決と解釈されかねない行為を避けることだ。

ウクライナ側に提供してきた武器を見れば分かる。仮にNATO軍がロシアと戦うなら射程の長いミサイルや火砲を投入し、空軍力を駆使し、敵機の侵入を阻む飛行禁止空域を設定するはずだ。

しかし今までウクライナ側に供与してきたのはロシア軍と同程度の射程のミサイルや火砲、それに小型のドローン程度だ。

それでも初期段階ではロシア軍の進撃を阻むことができた。しかし戦力が同程度では決着がつかず、現在の東部・南部戦線を見れば明らかなように、戦闘は長引く。結果として先の見えない消耗戦に追い込まれ、ウクライナ兵や市民の死傷者は増える一方だ。

これではウクライナ軍を生命維持装置につないでおくようなもの。ひたすら戦い続けるしかないが、それでもロシア軍の容赦ない砲撃で町や村は次々と抹殺されていく。

ここへきて高機動ロケット砲システムHIMARS(ハイマース)や多連装ロケットシステム(MLRS)など、より強力な兵器が投入されているが、それでも最前線の戦況は変わっていない。

こうやって戦域をウクライナと黒海に限定しておけば、NATOとロシアの直接対決は回避できるかもしれない。だが、そのせいでウクライナの農家が生産した2500万トンの穀物が輸出できず、畑のサイロで眠っている。その結果、飢餓に直面している国もたくさんある。

「グレーイーグル」が必要

今はちょうど小麦の収穫期だが、前年の収穫の多くが輸出できずに残っている。だから今年の収穫を保管する場所がない。ウクライナ政府は陸路での輸出ルートを確保しようとしているが、時間的な制約もあって実効性のある対策は難しい。

ちなみに、いま市場に出回っている「ウクライナ産」小麦の大半はロシア軍が占領地で略奪したもので、クリミア半島から直接、あるいはロシアの属国シリアなどを経由して輸出されている。

世界銀行によると、この戦争と海上封鎖のせいで、今年は世界各地で深刻な食糧不足に見舞われる人が、2020年比で4000万人近く増えるものと予想される。既に小麦粉やパンなど基本的な食料品の値上がりや燃料価格の高騰が多くの途上国で社会不安を引き起こしている。