警戒態勢が長期的なストレスに

アンデシュ・ハンセン『ストレス脳』(新潮新書)
アンデシュ・ハンセン『ストレス脳』(新潮新書)

そう考えると、なぜ孤独が「消化や心の落ち着き」ではなく、「闘争か逃走か」につながっているのかを理解しやすくなるだろう。

独りでいると、脳はこれが誰にも助けてもらえない状態だと解釈し、危険に対して警戒しておかなくてはと考える。すると身体は軽度ではあるが長期的なストレスを抱えたままいつでも警報を鳴らせる状態、つまり交感神経が優位な状態で暮らし続けることになる。長期的なストレスは血圧を上昇させ、炎症の度合いを上げる。孤独のせいで例えば心血管疾患の患者の予後が残念なものになることに説明がつくわけだ。

孤独はつまり脳に警戒態勢の段階を引き上げさせ、周囲には脅威が溢れていると感じさせる。

孤独は人をさらに孤独にする

かつてはそれが私たちの命を助けてきたが、今のあなたや私にとっては迷惑な話だ。他の人が自分に敵対心を抱いていると勘違いして社交生活が楽になることはない。むしろ無礼で傲慢な人だと思われてしまうリスクがある。それに他人を否定的に解釈していると長期的な孤立にもつながる。「どうせ私なんかにパーティーに来てほしくないだろう。行かないでおこう」。最後には負のスパイラルにはまり、なおさら引きこもるようになり、ますます周囲が否定的に見えてくる。「私になんて絶対に来てほしくないはず。誘ったのは自分が罪悪感を覚えたくないからか、私のことを利用しようと企んでいるからだ。やはり絶対に行かないでおこう」という具合に。

それだけではない。長く孤独でいると睡眠も途切れがちになる。睡眠時間が短くなるわけではないが、眠りが浅くなり、目が覚める回数も増える。

誰も横で寝返りを打ったりしていないのに、なぜ独りで眠る人のほうが深い眠りが短くなるのだろうか。ここでも人類の歴史を振り返ると信憑性のある説明が浮かび上がる。独りで寝ている人は危険が近づいても誰にも教えてもらえない。だから深く眠りすぎず、すぐ目が覚めることが重要だったのだ。

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