2013年、木村次郎右衛門さんが116歳で亡くなった。木村さんは生年月日と死亡年月日が確かな男性のうち、史上最も長生きだったといわれている。長生きの秘訣はどこにあるのか。ノンフィクション作家・ビル・ブライソン氏の著書『人体大全』(新潮社)より、最新の研究でわかった人間の寿命に関する7つのトリビアを紹介する――。
屋外で伸びをする高齢男性
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①死へのカウウントダウンを測る装置が体内にある

1961年、当時はフィラデルフィアのウィスター研究所の若き研究者だったレナード・ヘイフリックは、同分野のほとんど誰もがとうてい受け入れられない発見をした。

培養したヒトの幹細胞――つまり生体内ではなく実験室で育てた細胞――が、約50回しか分裂できず、そのあとはなぜか生きる力を失ってしまうことを突き止めたのだ。

要するに、老化して死ぬようにプログラムされているらしい。この現象は「ヘイフリック限界」として知られるようになった。それは生物学にとって重大な瞬間だった。老化が細胞のレベルで起こっている過程であることが、初めて示されたからだ。

さらにヘイフリックは、培養した細胞を凍結していつまでも保管でき、解凍すれば中断されていたその時点から老化が再開されることも発見した。明らかに、中にある何かが、何回分裂したかを記録する集計装置のような役割を果たしていた。細胞がなんらかの形で記憶を保持し、自らの死へ向かってカウントダウンできるという発想はあまりにも過激だったので、ほとんどあらゆる人に退けられた。

集積装置の役割を果たすテロメア

約10年のあいだ、ヘイフリックの発見は放置された。ところが、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究者チームは、テロメアと呼ばれる、各染色体の末端にあるひと続きの特殊化されたDNAが、集計装置の役割を果たしていることを発見した。

それぞれの細胞が分裂するたびにテロメアが短くなり、やがてあらかじめ決められた長さ(細胞の種類によって大きく異なる)に達すると、細胞は死ぬか、不活性になる。

この発見によって、ヘイフリック限界はにわかに信憑性を帯び、老化の秘密として熱烈に迎えられた。テロメアの短縮を阻止すれば、細胞の老化をそこで止められるかもしれない。世界じゅうの老年学者は色めき立った。