特筆すべきは現預金の多さ

HISの場合、特筆すべきはその現預金額の多さです。通常、HIS程度の会社の場合ですと、KNT-CTのところでも述べたように月商の1カ月程度の現預金を持っていればほぼ問題はありません。しかし、緊急時には、さらに多くの現預金を持つか、金融機関からの借入枠を設定しておく必要があります。いざというときに役立つのは、自身でコントロールできる資金だけだからです。

HISの2022年4月末の現預金は、約1017億円あります。この半年の売り上げは、先に述べたように684億円ほどですから、月商は114憶円です。その9カ月分程度の現預金を保有しています。今後も、危機が続く可能性を見越して多めに現預金を確保していると考えられます。

一方、有利子負債(借り入れ、社債等、リース債務)などは、長短合わせて2760億円あります。借り換えなどに対する銀行などの資金提供者の対応が今後のカギを握りますが、それには業績の改善が必要なことは言うまでもありません。

6月より訪日客の上限が2万人に引き上げられるなど、ウィズコロナの次のステップに進みつつありますが、訪日客がピークだった2019年の3188万人に比べれば、格段に少ない状況です。同様に海外への渡航客も増えつつありますが、今後のコロナの拡大や政府の対応次第で、まだまだ予断を許さない状況です。

スーツケースと航空券、ハット、サングラス、カメラに不織布マスク
写真=iStock.com/onurdongel
※写真はイメージです

もうひとつ、HISでの懸念材料は、先ほども少し触れたエネルギー事業です。電力小売りを行っているのですが、電力卸からの仕入れ価格が高騰しており、なかなか利益を出せる状況にはありません。

先ほども見たように、現預金は今のところは十分には確保していますが、転換社債型新株予約権付社債の転換状況や銀行のスタンスに当面は注意する必要があるでしょう。当面の旅行需要が回復する中において、5.8%にまで落ちた自己資本比率をこれ以上下げずに、債務超過を回避できるかが焦点です。

これから夏休みの旅行シーズンだというのに、新型コロナの7波もひたひたと近寄ってきています。元通りになるのは、もっとずっと先のことになってしまうかもしれません。

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