父親の医療保護入院

そして迎えた認知症検査の日、結果は30点満点中6点。父親は重度認知症であることが判明。医師は提案した。

「奥さん、これ以上一緒に生活するの無理でしょう? このままだと奥さんも娘さんも倒れてしまいますよ。入院させましょう!」

増井さんが、「本人が入院したくないと言うかも……」と心配すると、「医療保護入院の形なので、本人の同意がなくても大丈夫ですよ」と医師。即入院が決定し、増井さんはこの時、「医師が神様に見えた」と話す。

入院先の病院では、担当になった相談員から費用やスケジュールなどの説明があり、「おそらくお父さんは要介護1か2。条件的に特養(特別養護老人ホーム)には入れないので、このあとは民間の老人ホームか老健(老人保健施設)に入所させては?」と助言された。

介護認定の結果は要介護1。

「当時父は、(ケガをした)頭以外はとても元気。トイレは頑なに立ってするため、便器や床をすごく汚していましたが、一応自分でできていました。でも、後から部屋を片付けていて発覚したのですが、小便の入ったプラスチック容器をいくつも押し入れに隠していて、『父の部屋から漂う悪臭のもとはこれか!』と合点がいきました」

トイレでさえ、床を汚すほどだ。便器より小さいプラスチック容器に小便をこぼさず入れるのは難しい。おそらく布団や床にこぼしていたに違いない。増井さんと母親は、父親の入院後、父親の布団を捨て、床を張替えるなど、家の大改修を計画。

その改修をしていたある時、増井さんはこう叫んだ。

「アイツには二度と、この家の敷居はまたがせない! 今度この家に戻って来る時は、骨壺に入った時だ!」

横にいた母親も言った。

「甘いよ! 骨になってもこの家には入れない。『即・納骨』だ!」

増井さんとともに長年介護をしてきた母親にはうつ症状があったが、夫(父親)の入院後はすっかり元気になっていた。

父親は医療保護入院を1カ月した後、同じ精神病院の認知症病棟に移動。増井さんと母親が病院に行くと、主治医は、「今のところ病院では暴言暴力はありません。暴言暴力をするのは、妻や娘をバカにしているから。気心の知れている家族には暴言暴力をし、他の人にはしないのは、男性の“認知症あるある”です」と説明。さらに、「お父さんの認知症は少なくとも5年前には始まっていた」と予想。「ここまで進行していると、治すとか進行を遅らせるとかいうレベルではありません。もう在宅介護は無理でしょう」と首を振った。

しかし、要介護1では特養には申し込めない。そのため、費用面など含めて、保護入院先のソーシャルワーカーに相談すると、隣県の老人ホームを紹介され、10月には父親を移した。

終末期患者とその家族
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