<市場原理で価格が変動することがアメリカでは許容されているが、格差社会が露骨に価格に反映されることは良いことではない:冷泉彰彦>
アメリカのエンターテイメント
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商品を買って楽しむのではなく、転売目的で仕入れるために買い占めに走る行為が日本では後を絶ちません。いわゆる「転売ヤー」の問題です。買い占め行為が横行することで、消費者が適正な価格で商品を入手できなくなるわけで、社会的には迷惑行為以外の何物でもありません。

このような転売目的の買い占めについては、アメリカでもゼロではありませんが、大きな社会問題にはなっていません。反対に、転売目的のオークション出品というのは普通のことですし、スポーツの試合やコンサートなどイベントのチケットについても、再販売市場があり、転売をするのも、それを買うのも、転売に関する社会的な批判は限られています。

では、アメリカの場合は、問題はないのかというとそうではありません。まず、イベントのチケットですが、21世紀に入ってネット通販が普及すると急速に再販売市場が活性化しました。その結果として、野球のワールドシリーズや、人気バンドの夏のツアーなどのチケットは、正規ルートで買えなかった人の需要に応える形で一部が「プラチナ化」しました。

こうした事態を受けて、特に有名なミュージシャンのツアーであるとか、またNFLのプロフットボールの試合のチケットについては、主催者が再販売業者と提携する中で、よりきめ細かく需要と供給をコントロールするようになりました。その結果、市場原理が働く中で正規料金が上昇する、と言いますか変動料金制度とでもいうような状況になっています。

ガガのチケットが40万

例えば、この夏のツアーの中で最も前人気の高いものの一つである、レディー・ガガの「クロマティカ・ボウル」と銘打ったツアーのニュージャージー州公演(8月11日)の場合は、かなり満員御礼に近い状況になっており、舞台の至近距離のチケットは1枚3000ドル(約40万円)になっています。NFLのフットボールの場合も人気チームのペイトリオッツの主催ゲームはフィールドに近い席では1000ドル(13万円)以上で、最安でも300ドル(4万円)ですが、ジェッツの場合は同じAFC東(地区)のチームですが、その3分の1だったりします。

つまり、市場原理が露骨に反映してしまい、人気化したチケットは富裕層にしか手が届かないという結果となっています。NFLの場合は、コアのファンは庶民階層ですが、彼らのために一部のスタジアムでは、BBQをしながらネットやラジオで観戦するために駐車場を開放したりしています。つまり格差社会がそのまま購買力の差になり、それが価格差に反映するということが、社会的に許容されてしまっているのです。決して良いことではないと思います。

その意味で、日本の場合は転売を規制することで、イベントのチケットを常識的な範囲に収める努力をしているわけで、こちらの方が合理的と言えます。スポーツやカルチャーというのは、夢があってこそ成り立つカルチャーであり、露骨に格差社会が価格に反映するようでは、夢は雲散霧消してしまうからです。

一方で、アメリカの場合は「商品が人気化すると転売価格が高騰する」という現象は、あまり話題にはなりません。トレーディング・カードや、記念コインなどが希少価値で高騰することはありますし、現在はやや鎮静化しているものの、昨年末からの中古自動車市場の高騰という現象はあります。