登戸駅前店がトイレに着替え台を設置した理由

こうして収集した定量データや定性情報をコト発想で整理し、どのようにして新しい店をつくるか。ストア・イノベーション・プロジェクトとして、店舗スタッフも一緒にワイガヤ・ミーティングでディスカッションを重ねるなかで、仮説を導き出していく。

こうしたプロセスにより、川崎登戸駅前店では従来のセブン‐イレブンにはない売り場が誕生していきました。

たとえば、トイレです。室内を拡張して設置した女性用のチェンジングボード(着替え台)は、顧客体験を想定したコト発想の典型でした。

女性のお客様がセブン‐イレブンでストッキングをお買い求めになるのは、ファッションのためではなく、伝線するなど緊急対応のケースが多い。つまり、単にストッキングというモノ(商品)がほしいのではなく、穿き替えるコト(体験)を求めている。

これも女性の声を聴くなかで発見した、男性には「理解できていない価値観」でした。

そこで、チェンジングボードをトイレに設置し、お店の入り口のドアに、着替え台があることを示すピクトグラム(絵文字)を張ったところ、ストッキングの売り上げは3倍以上に伸びました。

男性中心では発掘できなかった“常温”ニーズ

また、女性用の栄養ドリンクも従来は、主に男性をターゲットとした栄養剤や強壮剤と一緒に並んでいたため、女性は手に取りにくい面がありました。

そこで、「女性の癒やし」というコト的なニーズに応えるため、一つの棚に女性用栄養ドリンク、カモミールなどのハーブティ、入浴剤、疲れを取るホットアイマスク、女性向け書籍を並べ、その隣にはストッキングや女性雑誌を配置し、女性に向けたエリアを設けました。

クロスマーチャンダイジング(異なる種類の商品を組み合わせて、同じ売り場で売ること)により、どのような体験ができるかというコト的な意味をもった売り場をつくった結果、女性用栄養ドリンクは売り上げが1.2倍に増加しました。

鈴木敏文『鈴木敏文のCX(顧客体験)入門』(プレジデント社)
鈴木敏文『鈴木敏文のCX(顧客体験)入門』(プレジデント社)

また、VOICEのワイガヤでは、ソフトドリンク類についても、「セブン‐イレブンはなぜ、ホットかすごく冷えたのかと、どちらかしかないのでしょうか」という声があがりました。

男性中心の価値観では、しっかり加熱されているか、冷却されているか、ニーズはどちらかしかありませんでしたが、女性の価値観ではもう1つ、常温帯のニーズがありました。

女性の場合、冷えた飲料は体が冷えるという理由に加え、飲み残した冷えたボトルを鞄にそのまま入れると、ボトルが汗をかいてまわりがぬれてしまうのを避けたいという不満があり、それも「理解できていない価値観」であり、潜在的なニーズでした。

そこで、常温帯のドリンクも品揃えしたところ、売り上げは1.5倍に伸びました。