目に見えないニーズを発掘する“ワイガヤ”という手法

コト発想の店づくりを行ううえで、プロジェクトチームが重視したのは、女性の声でした。

各種データをもとに商圏を調査するのに定量調査があります。定量調査では、すでに顕在化したニーズはわかりますが、お客様の潜在的なニーズは把握できません。顕在化したニーズにもとづいて、モノ(商品)を品揃えしても、お客様に新しい価値を感じていただけません。

お客様も気づいていないニーズにこそ、新しい体験というコトの価値が生まれる。その「目に見えないコト」を調べるために、プロジェクトチームが注力したのが、「ワイガヤ」をとおした定性調査でした。

ワイガヤとは、参加メンバーが肩書や立場の違いを超えて、自由に意見を出し合うなかで新しいアイデアを生み出す場のことをいいます。自動車メーカーのホンダで生み出されたミーティングの方法で、ホンダでは新商品開発の際、合宿形式で行われるようです。

コワーキングスペースでミーティングを行う会社員
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです

特命チームのリーダーが、セブン&アイグループの幹部候補育成を目的とした研修に参加した際、講師として招聘された元ホンダ幹部から講義を受けたことが、ワイガヤの採用のきっかけとなりました。

男性目線だけでは「理解できていない価値観」があった

セブン‐イレブンは創業以来、男性社員を中心として運営されてきた面が強く、そこには男性を中心とした価値観が強く反映されていました。来店客も以前は男性が中心であったため、それでも成り立ちました。

しかし、2009年の秋に、「いまの時代に求められる『近くて便利』」をコンセプトに、それまでの弁当・おにぎりなどの即食性の商品中心から、惣菜類など、コンビニで食事の仕度ができるような品揃えへと、店づくりを大きく転換して以降、女性客の占める比率が年々高まってきていました。

そこで、プロジェクトチームは、男性中心の価値観では「理解できていない価値観」を自覚することを目的に、「VOICE」と題したミーティングを開催しました。

全国に展開するセブン‐イレブンでは、一定範囲の地域ごとにディストリクト・オフィス(DO)と呼ばれる拠点が設定されています。DOのオフィスには加盟店の会計処理を行う会計担当スタッフがいて、それぞれの地域での現地採用の若い女性が多く占めます。

そこで、DOの女性スタッフや本部の女性にそれぞれ集まってもらい、「いま困っていること」「不満に思うこと」「不便に感じていること」といったコト的なテーマでワイガヤで自由に対話してもらい、潜在的なニーズを掘り起こそうとしました。

ワイガヤは、定量的なアンケート調査と異なり、たとえ一人の意見であっても、その意見への周囲の賛同の度合いで、不便さや不満を浮き上がらせることができました。