誤解のないようにいうと、中国モデルがいいという意味ではなく、少なくとも中国人は自分たちの必要かつ十分な〈利益〉を必ず手に入れるために、合理的に判断し行動しているということです。

だからこそ、日本人はつねに「交渉の7つのカギ」に立ち戻り、感情的に揺さぶられずにもっと論理的になるべきです。中国人との交渉においても、日本人は「交渉の7つのカギ」をフル活用して、徹底的に合理的な戦略を取るべきなのです。

中国人の頭の中にはつねに「国家」がある

ただし、中国企業との交渉で留意しなければならないことに「中国という国家」の存在が挙げられます。

中国・上海の街に立つ国旗
写真=iStock.com/SaidMammad
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中国は中国共産党がすべてを仕切る社会主義国家であり、中国企業の〈利益〉に、「国家の〈利益〉」がかなり密接に関わってくる場合があるのです。国家の〈利益〉とは、国の安全保障や経済発展、国有企業の保護などを指します。

なかでも、もっとも重要なのは共産党政権の維持です。中国人はこれらをつねに考えるため、例えば交渉の過程で、台湾、香港の問題や領土問題などが絡んでくると、交渉の難易度が上がることがあります。

国家の〈利益〉のために、中国は法律をいくらでもつくることができます。要するに、誰とビジネスをしようとも「ルールは自分たちがつくる」という国なのです。

もちろん日本もルールはつくれますが、民主主義ゆえに国会を経なければならず、もし新たなルールをつくるとしてもかなりの時間を要します。しかし、中国は党が決めれば、なんの反対もなくすぐ法律をつくることができるのです。

法に従って国を治めているといっても、その法を党が自由につくれるので、その理屈づけやスピード感は民主主義国家の常識とはまったく異なります。

ちゃぶ台返しには〈BATNA〉が使える

その意味では、中国は日本とまったく違う国であり、まさに「パラレルワールド」といえるでしょう。

そんなまったく異なる制度とメカニズムを持つ国と、いったいどう相対していけばいいのでしょうか?

わたしは、それこそ〈BATNA〉を持つしかないと考えています。