ラブホテルの前で18時間張り込むことも
「じゃあ、1日の勤務時間でどれくらいなんですか?」
「うーん、日によるかな。夕方から3時間くらいで終わることもあれば、朝まで待機することになる可能性もあるから……」
そんな話をしている最中に所長の電話が鳴った。
「ちょっと、ゴメンね」
ソファを離れて電話を取る氏。
『もしもし、どうしたの?』
口調から察するに部下からの連絡があったようだ。
『うん。じゃああと半日くらい待機して、出てこなかったら帰っていいわ。それじゃ』
電話を切って戻ってきた。
「いまの電話はどなたからだったんですか?」
「ははは、野村くんの先輩のバイトくんだよ」
なんでも、浮気調査の張り込みで、今日の早朝からラブホテルの前でずーっと待機しているそうな。さらに今から半日も待つってことは計18時間とか? ぶっ倒れるぞ。
「探偵はずーっと待つのが仕事だから、それだけ覚えておいてね」
なるほど、やっぱり張り込みが基本のようだ。
「じゃあ、日程が決まったら連絡するから、待っておいて」
「はい。わかりました」
いったいどんな依頼が待ち受けているのか、気が重いなあ。
土曜日の夕方、川崎駅に呼び出されると…
数日後、面接を担当した所長から電話がかかってきた。
『もしもし、野村君? 明日(土曜日)に川崎駅に来れるかな?』
『はい、大丈夫ですよ』
『じゃあ、16時にJRの改札の外で待っていてくれるかな?』
探偵の仕事は客の要望に合わせて動くので、いきなり仕事が入ることがあるらしい。今回も突然の依頼が舞い込んできたんだと。
「特に何も持ってくる必要はないし、洋服も普段着でいいから」
ふーん、探偵といえばバレないようにサングラスやマスクで変装するものかと思っていたが、ちょっと残念だ。
言われたとおり、翌日の夕方に川崎駅に赴いた。休日ということもあって駅の構内はかなり混雑している。
待ち合わせ場所の時計台に所長が立っていた。おーい。
「お待たせしました」
「いやいや、時間どおりだから大丈夫だよ。対象者が来るまで時間があるから待っていよう」
対象者ってのが、今日尾行する男のことのようだ。今のうちに仕事の内容を聞いておくか。
「今日はなにをするんですか?」
「浮気調査だよ。あと1時間くらいで、その男がこの駅に来る予定なんだけど、その人を尾行するわけ」
なるほど。てか、なんでこの駅に来ることを知ってるんだろ。
「ああ、それは依頼主にあらかじめ聞いてるんだよ。それに念のため藤原っていうベテランの調査員が自宅から尾行してるから」
依頼の内容はこのようなものだ。