一見、浮気者には見えないけどなあ…
もう1人のメンバーは、今まさに依頼主の自宅から尾行を開始している藤原だ。
「これで常に通話できるようにしておいてね」
「はい。わかりました」
所長が言う。
「おっ、もうすぐ対象者が来る。準備して。野村君はあっちの西側の改札。タナカは東側な」
「わかりました」
「これ、写真だから男の顔を覚えておいて。忘れないようにね」
対象者の写真を何枚か見せてくれた。夫婦が写っている記念写真だ。笑顔が眩しくて真面目そうな男性だ。一見、浮気者には見えないけどなあ……。
ライン電話をつないで各々が場所を移動する。いよいよだ。スマホから所長の声が聞こえた。
『対象者、もうすぐ来る。タナカの方に来るわ』
おそらく自宅から尾行している藤原から連絡がきているのだろう。所長が電話口で語気を荒げて言った。
『キタキタキタ。おいタナカ。撮れ、撮れ、撮れ!』
タナカ側の改札に現れたようだ。
彼は鞄からハンディカムを取り出して、男の方にカメラを向けた。レンズは覗かずに男の方に向けているだけだ。バレないように注意しているのだろう。
改札をスーツ姿の男性が通りぬけてきた。遠目ではあるが、俺自身でも確認できた。写真よりもいくらか太っているが、本人に間違いない。なんだか事件の犯人を見つけた気分だ。めっちゃ興奮してきた。
『○○ホテルに入ったよ。出入り口確認して』
所長が一番前、その後ろにタナカ、そして最後尾に俺と藤原が縦に並ぶ形で尾行することになった。尾行がバレている可能性は低いが、念のため順番を変えるのだそうな。
「女に話しかけてる、あっ合流した」
藤原とは初対面なので、挨拶をする。彼はパーカー姿で30代半ばくらいだ。
「はじめまして。今日から入りました野村です」
「ああ、どうも」
テンションが低くて話かけづらい。根暗っぽい感じだな。なんとなく尾行は上手そうな雰囲気だ。
「ここからホテルに行くんですかね?」
「うーん。どう動くのかは正直わかりませんね。一人で入るかもしれませんし、本当は別の件でただ川崎に来ているだけって可能性もあるから」
たしかに、そうなったら面倒だな。
「何が起こるかわかりませんよ。絶対に気を抜かないように」
「はい。わかりました」
無駄口を叩くなと言われてしまった。集中せねば。
混雑している駅の構内を出て、繁華街の方向に進んでいく。イヤホンから先頭を行く所長の声が聞こえてくる。
『東口方面、ホテル街の方に進んでるね。あっ、対象者、セブンイレブンの前で止まった。女に話しかけてる、あっ合流した』
俺の目からは見えないが、どうやら不倫相手と待ち合わせをしていたらしい。そのままホテル街の方向に進んでいく。その途中でまたもイヤホンから指令が。
『ああ、コンビニに入るわ。ファミマね。近くまで来たら待機しといて』
調査員たちは集合することはせずに、互いに距離を取ってモノ陰に隠れた。数分後、酒の入ったビニール袋を手にした二人がコンビニから出てきた。